大学改革・学位研究
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論文
学科系統分類表に基づく専門分野別統計の批判的検討
―学士課程教育の質保証と大分類「その他」―
串本 剛
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2025 年 26 巻 p. 103-112

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要旨

学士課程教育の質保証に関して,学修成果の内容的側面に注目した場合,日本の大学生の1割弱が専門分野「その他」を修めて卒業する現状は,検討に値する。そこで本研究では,専門分野別統計の根拠である学科系統分類表について歴史と国際比較の視点から検討した上で,同じ名称であるにも関わらず異なる大分類に併存する学科の例として「国際学科」に注目し,大分類「その他」の学科が他の大分類には整理されない理由を分析した。学科系統分類表の検討により,同表の抜本的な改訂が長らく行われておらず,大分類「その他」の存続は国際的に見て異例であることが判明した。また国際学科の事例分析により,学科の属する大分類は,カリキュラムに関わる特徴よりも設置年との関連が強いことを明らかにした。本研究の知見からは,学科系統分類表に依拠した現行の専門分野別統計には課題があり,その解決は学士課程教育の質保証を促す一助となり得ることが示唆された。

Abstract

This study examines the Departmental Classification Table, which serves as the foundation for statistical data on academic fields in Japan. It explores the historical development and international comparisons of this table, with a particular focus on the “Department of International Studies” as an illustrative example of a department with the same name but belonging to different broad field categories. An examination of the Departmental Classification Table revealed that the table has not been fundamentally revised for a considerable period and that the persistence of the broad field category ‘Others’ is anomalous from an international perspective. The analysis of departments of international studies indicated that the primary factor determining the broad field categories to which departments belong is the time of establishment, rather than the characteristics related to the curriculum.

1. 序論

専門分野別統計の国際比較によれば,日本の大学生は「その他」を修めて卒業する割合が大きい。例えばUNESCOのInternational Standard Classification of EducationのFields of education and training(ISCED-F)を使ったOECDの統計を見ると,“Field unspecified”の割合は加盟国全体で0.8%であるのに対し,日本では7.9%に上る(表11。学士課程教育に求めるべき専門性には多様な考えがあるものの,卒業生の13人に1人以上の専門分野が「その他」である現状は,質保証の観点からは看過できない。なぜなら質が学修成果の内容と水準から構成されるとすれば,統計上の専門分野は内容を表す記号のひとつに他ならないからである。

表1 OECD統計における学士課程卒業者の専門分野(2021年)

日本全体
Generic programmes and qualifications0.0%0.1%
Education7.7%7.6%
Arts and humanities18.4%11.4%
Social sciences, journalism and information10.0%14.6%
Business, administration and law24.6%22.9%
Natural sciences, mathematics and statistics3.1%6.7%
Information and Communication Technologies4.1%
Engineering, manufacturing and construction15.0%12.7%
Agriculture, forestry, fisheries and veterinary2.9%1.4%
Health and welfare7.6%13.7%
Services3.0%3.9%
Field unspecified (Broad field level)7.9%0.8%

教育内容を表す記号には他に,学科名や学位名(学位に付記する専攻分野の名称)があり,統計上の専門分野を加えた3者の関係は,これまでも議論されてきた。例えば大学改革支援・学位授与機構は,1994年より学位名の調査をしており,最新の公表資料では学科系統中分類ごとに同名学位を出す学科数を整理している(大学改革支援・学位授与機構,n.d.)。また2015年度の当該調査結果を使った高橋・森(2018)では,学士の学位名723種類のうち66%が唯一名称で,その比率は学問分野(学科系統大分類)や大学の属性によって異なることを明らかにしている。

学科名と学位名の関係で注目されるのは,日本学術会議(2014)による報告で,学位名の改善に関する提案として,①「○○学」にとらわれない,②組織名との区別,③複数の語を組み合わせた名称の意味の明確化,④わかりやすく単純で共通性のある表現を,の4つを挙げている。さらに串本ほか(2023)では,学位名および学科系統中分類との関係から学科名類型を作成し,学科系統大分類の「商船」と「家政」を除いた4年制学士課程を提供する学科の名称1,871のうち,72%にあたる1,352が唯一名称であるだけでなく,学科名からは学位名か中分類もしくはその両方が一意には決まらない例が20%強あることを示している。

これらはいずれも学士課程教育の質保証における内容的側面の課題に関する論点で,継続的な実態把握が求められるものの,本稿では専門分野別統計のあり方自体に焦点を絞り,学科系統大分類「その他」についての複層的な分析を試みる。まずは,表1に見た日本の専門分野別統計の根拠である学科系統分類表について,歴史と国際比較の視点から検討し,専門分野「その他」を修める学生が多くなる原因を明らかにする。次に,同じ名称であるにも関わらず異なる大分類に併存する学科とそのカリキュラムの分析を通じて,大分類「その他」の学科が他の大分類には整理されない理由を考察する。最後に2つの分析を踏まえ,日本における専門分野別統計の課題を,学士課程教育の質保証の文脈において議論する。

1  本稿執筆に着手した2024年3月にOECD StatsのWebページ(https://stats.oecd.org/)から実数をダウンロードし,割合を算出した。その後,同サイトはプラットフォームが変わり,専門分野別統計において“Field unspecified”がなくなったため,2024年9月現在の出力では各分野の割合が若干異なる。なお,ISCED-Fに関しては,吉本(2019)で詳しく紹介されている。

2. 学科系統分類表

2.1 歴史

表1にある日本の数値の背景には,『学校基本調査報告書(高等教育編)』に付録として掲載されている「学科系統分類表」が存在する2。同表は1956(昭和31)年度の報告書に「大学の学科の分類表」として初出,その名称は「学科分類表」(1957年度〜)を経て,1975年度からは「学科系統分類表」に定まった。同表では学科名そのものを小分類とし,それらを76の中分類と11の大分類(人文科学,社会科学,理学,工学,農学,保健,商船,家政,教育,芸術,その他)にまとめている。

大分類「その他」は1968(昭和43)年度に,東海大学教養学部の設置を契機として設けられたと推察される。東海大学教養学部には芸術学科と生活学科(現人間環境学科)が設けられたため,それまでは大分類「文学」に含まれていた東京大学教養学部の教養学科と合わせて,中分類「教養学関係」も新設された。これ以外にも,同年度の学科系統分類表には大幅改訂がなされ,例えば,大分類直下の区分名称が小分類から中分類に変更されたり,大分類「文学」と「法政商経」の名称がそれぞれ「人文科学」と「社会科学」になったりした3

その後,大分類「その他」に含まれる学科名は徐々に増えていったが,急増の発端はやはり,1991年の大学設置基準の大綱化であろう。称号に過ぎなかった29種類の「学士」が,専攻分野を付記する学位としての「学士」になったことは周知の通りである。これを受けての学位名の多様化は高橋・森(2018)などによって明らかにされているが,学科名に関しても同様の現象が起きており,1993年に1,000種類程度だった学科名は,10年後には約2倍,20年後には約3倍になっている。これに並行して,大分類「その他」における学科名も,同じ期間で17種類から284種類の16.7倍に膨れ上がっている(図1左軸)。必然的にそこで学ぶ学生の割合が増えていることも,同じく図1(右軸)から明らかである。

図1 専門分野別学科名数および大分類「その他」学科の卒業者が占める割合

2  学校基本調査は2022年度分を最後に冊子の発行が終了したが,最新版は文部科学省のウェブサイトにおける調査の手引きから参照できる.

3  1967年度の報告書までは教養課程のみを対象とした大分類「教養」が存在し,例えば東京大学の1,2年生のように学科の定まらない学生の受け皿となっていた一方,東京大学教養学部教養学科は大分類「文学」の小分類「その他」に含まれていた。この他に1968年度の大改訂では,小分類「社会学」が大分類「文学」から「社会科学」に移動,中分類「教育学」が大分類「文学」から大分類「教育」として独立,小分類「生物地学」が中分類「生物」と「地学」に分離,小分類「船舶航空」が中分類「船舶」と「航空」に分離,大分類「医歯薬」と「看護」が大分類「保健」に含まれる中分類に変更,大分類「教員養成」が「教育」に変わり大分類「体育」が中分類としてそこに統合,などが実施された。

2.2 国際比較

日本における専門分野「その他」の特異性を示すには国際比較が必要となるため,本稿では学士課程教育の質保証の文脈で参照されることが多い米国と英国を取り上げる。

米国の中等後教育に関する統計を確認できるIntegrated Postsecondary Education Data System(IPEDS)では,Classification of Instructional Programs(CIP)に基づいて専門分野別の集計が行われる。CIPの開発は1980年で,その後1985年,1990年,2000年,2010年に改訂され,最新版は2020年から利用されている(National Center for Educational Statistics, n.d.)。

CIPは最大6桁の数字から成り,2桁の大分類が50,4桁の中分類が468,6桁の小分類が約2,300ある。表2には大分類のうち米国の学士課程に適用されるもののみを示しているが,それでも38あるため, NCESがWebサイトやDigest of Education Statisticsで公表する際には,より大きな括りとなることもある。なお,「その他」を意味する‘Other’には99の数字が当てられているが,大分類では使用されておらず,中分類や小分類にのみ見られる。

表2 学士課程に適用される2桁のCIPコード

01 AGRICULTURAL/ANIMAL/PLANT/VETERINARY SCIENCE AND RELATED FIELDS
03 NATURAL RESOURCES AND CONSERVATION
04 ARCHTECHTURE AND RELATED SERVICES
05 AREA, ETHNIC, CULTURAL, GENDER, AND GROUP STUDIES
09 COMMUNICATION, JOURNALISM, AND RELATED PROGRAMS
10 COMMUNICATIONS TECHNOLOTIES/TECHNICIANS AND SUPPORT SERVICES
11 COMPUTER AND INFORMATION SCIENCES AND SUPPORT SERVICES
12 CULINARY, ENTERTAINMENT, AND PERSONAL SERVICES
13 EDUCATION
14 ENGINEERING
15 ENGINEERING/ENGINEERING-RELATED TECHNOLOGIES/TECHNICIANS
16 FOREIGN LANGUAGES, LITERATURES, AND LINGUISTICS
19 FAMILY AND CONSUMER SCINECES/HUMAN SCIENCES
22 LEGAL RROFESSIONS AND STUDIES
23 ENGLISH LANGUAGE AND LITERATURE/LETTERS
24 LIBERAL ARTS AND SCINENCES, GENERAL STUDIES AND HUMANITIES
25 LIBRARY SCIENCE
26 BIOLOGICAL AND BIOMEDICAL SCIENCES
27 MATHEMATICES AND STATISTICS
29 MILITARY TECHNOLOGIES AND ALLOIED SCIENCES
30 MULTI/INTERDISCIPLINARY STUDIES
31 PARKS, RECREATION, LEISURE, FITNESS, AND KINESIOLOGY
38 PHILOSOPHY AND RELIGIOUS STUDIES
39 THEOLOGY AND RELIGIOUS VOCATIONS
40 PHYSICAL SCIENCES
41 SCIENCE TECHNOLOGIES/TECHNICIANS
42 PHYCHOLOGY
43 HOMELAND SECULITY, LAW ENFORCEMENT, FIREFIGHTING AND RELATED PROTECTIVE SERVICES
44 PUBLIC ADMINISTRATION AND CSOCIAL SERVICE PROFESSIONS
45 SOCIAL SCIENCES
46 CONSTRUCTION TRADES
47 MECHANIC AND REPAIR TECHNOLOGIES/ TECHNICIANS
48 PRECISION PRODUCTION
49 TRANSPORTATION AND MATERIALS MOVING
50 VISUAL AND PERFORMANCE ARTS
51 HEALTH PROFESSIONS AND RELATED PROGRAMS
52 BUSINESS, MANAGEMENT, MARKETIN, AND RELATED SUPPORT SURVICES
54 HISTORY

英国の高等教育統計はHigher Education Statistics Agency(HESA)のサイトから参照可能で,専門分野はThe Higher Education Classification of Subjects(HECoS)をCommon Aggregation Hierarchy(CAH)に基づき分類したものが使用されている。HECoSは,その前身であるJACS(the Joint Academic Coding System)に代わって,2019年度に導入された(Higher Education Statistics Agency, n.d.b)。ちなみにJACSの使用開始は2002年度で, 2007年度と2012年度に2度更新されている。

CAHもCIPと同様に最大6桁の数字で,大分類の2桁であるCAH1 が21(表3参照),中分類の2桁であるCAH2 が35,小分類の2桁であるCAH3 が167存在する(Higher Education Statistics Agency, n.d.a)。小分類の数が学科系統分類表やCIPに比べて少ない印象を受けるが,これは実質的な最小単位がHECoSに定義されているためで,実際HECoSには1,092の学問分野(subjects)が列記されている。なおイギリスの場合,「その他」を示す‘others in’は,CAH1 とCAH2 のレベルには存在せず,CAH3 に散見されるに過ぎない。

表3 Common Aggregation Hierarchy tier 1

01 Medicine and dentistry
02 Subjects allied to medicine
03 Biological and sport sciences
04 Psychology
05 Veterinary sciences
06 Agriculture, food and related studies
07 Physical sciences
09 Mathematical sciences
10 Engineering and technology
11 Computing
13 Architecture, building and planning
15 Social sciences
16 Law
17 Business and management
19 Language and area studies
20 Historical, philosophical and religious studies
22 Education and teaching
23 Combined and general studies
24 Media, journalism and communications
25 Design, and creative and performing arts
26 Geography, earth and environmental studies

専門分野別統計における日本と米英の仕組みを比べると,そもそも米英の専門分野分類では一番大きな区分(大分類)に「その他」がなく,それが専門分野別統計を国際比較した時の日本の特異性に繋がっていることがわかる。こうした違いの原因に関する更なる考察は第4章に譲り,次章では日本の大分類「その他」に含まれる学科について検討する。

3. 大分類「その他」

3.1 大分類跨ぎの学科名

既出の図1を見ると,学科系統分類表の小分類は現在3,500を超えるが,ここには現存しない学科名も含まれている点に注意が必要である。2020年度現在の学科名を分析した串本ほか(2023)によれば,学科名数は2,000弱,学科数はその2.5倍程度である。相当数の唯一名称学科があるとはいえ,当然,複数の学科が使っている名称が存在し,その中には異なる大分類に併存する学科名もある。そのような例を,ここでは「大分類跨ぎの学科名」と呼ぶ。

表4は,2020年度現在のデータについて,3つ以上の学科系統大分類に併存する学科名と,それらの大分類ごとの学科数をまとめた一覧である。例えば学科数の一番多い「心理学科」は,大分類「人文科学」に57,「社会科学」に2,「保健」に3,「教育」に1,「その他」に3学科あったということである。では,同じ名称の学科が異なる大分類に属するのには,どのような理由があるのだろうか。この疑問と本稿の論点を勘案し,大分類「その他」に属する学科が最も多い「国際学科」について,より詳細に検討する。

表4 大分類跨ぎの学科名と学科数

人文
科学
社会
科学
理学工学農学保健家政教育芸術その他総計大分類
跨ぎ数
心理学科572313665
臨床心理学科131321205
生命科学科13222194
環境科学科111474
環境デザイン学科122274
健康栄養学科8261353
情報科学科8113223
国際学科6211193
国際教養学科6110173
人間科学科827173
栄養学科268163
情報メディア学科651123
国際関係学科325103
情報学科14493
人間文化学科41493
人間社会学科15393
国際観光学科16293
こども学科17193
応用生物科学科21693
コミュニケーション学科41273
メディア情報学科14273
建築デザイン学科51173
応用生命科学科11573
健康科学科21363
スポーツマネジメント学科31263
情報デザイン学科41163
国際地域学科31153
地域文化学科31153
人間健康学科12143
人間環境学科21143
生命化学科21143

3.2 事例:国際学科

2020年度に19あった国際学科は,22年度の1減3増,2024年度の5増を経て,2024年度現在26学科が学生募集をしている。表5に示した26学科は,設置年順に並んでおり,白地に黒文字は大分類「その他」の11学科,黒字に白文字は大分類「その他」以外の15学科を示す。

表5 国際学科(2024年度現在,設置年順)

大分類大学・学部名設置年入学定員プログラム数必修単位率学位名
その他明治学院・国際1986245325.4%国際学
その他大阪学院・国際199080225.8%国際学
その他広島市立・国際1994100515.6%国際学
社会科学敬愛・国際200798451.6%国際学
その他共立女子・国際2007250322.6%国際学
その他拓殖・国際2007350627.4%国際開発
社会科学関西学院・国際2010300114.5%国際学
その他中部・国際関係201614018.9%国際学
その他大阪経済法科・国際2016200219.4%国際学
その他近畿・国際2016500223.8%国際学
その他宇都宮・国際201784130.4%国際学
社会科学高崎経済・経済201780125.0%経済学
人文科学昭和女子・国際2017120118.0%国際学
人文科学大阪産業・国際201720548.1%国際学
その他東京成徳・国際201981125.8%国際学
人文科学麗澤・国際202080329.8%国際コミュニケーション
人文科学和洋女子・国際202060154.0%国際学
人文科学中京・国際2020150440.0%国際学
人文科学東海・国際2022200129.0%国際学
人文科学追手門学院・国際2022150129.0%国際教養学
人文科学摂南・国際2022250124.2%文学
人文科学実践女子・国際2024120127.4%国際学
人文科学桜花学園・国際202450419.4%国際学
その他日本福祉・国際20248018.1%国際学
社会科学名古屋商科・国際20241341教養
社会科学ノースアジア・総合政策20245039.7%法学

まずは学科の属性と言えそうな要素を確認すると,学部名は大部分が「国際」で,例外は中部大学の国際関係学部と高崎経済大学の経済学部,ノースアジア大学の総合政策学部である。設置年は最も古い明治学院大学が1986年で,今回の分析対象で最新の2024年には5学科が設置されている。設置年にはある程度偏りがあることが窺われ,2007年,2016年,2020年,2022年に3学科ずつ,2017年に4学科,2024年には5学科が設置されている。また2017年以降に設置された学科の多くは,大分類「その他」以外に分類されている。入学定員は最小の50名(桜花学園大学,ノースアジア大学)から最大の500名(近畿大学)まで幅があり,26学科の平均は約160名である。

次にカリキュラム関連の要素としては,学科の下位にあるプログラム数(コースや専攻などの数)に幅があり,拓殖大学には最大の6コース(国際協力,国際経済,国際政治,国際文化,国際観光,農業総合)が設けられている一方で,半数の13学科は明示的なプログラムには分かれていない。必修科目の単位数を卒業に必要な単位数で除した必修単位率は,最小が大阪産業大学と日本福祉大学の8.1%,最大が和洋女子大学の54.0%で,公開情報からは算出できなかった名古屋商科大学を除く25学科の平均は約26%であった4。学位名(学位に付記する専攻分野の名称)は「国際学」が多く,例外は拓殖大学の「国際開発」,高崎大学の「経済学」,麗澤大学の「国際コミュニケーション」,追手門学院大学の「国際教養学」,摂南大学の「文学」,名古屋商科大学の「教養」,ノースアジア大学の「法学」の7つで,拓殖大学以外は大分類「その他」以外に整理されている。

ここまでで概観した各要素を踏まえ,大分類「その他」の11学科とそれ以外の15学科の統計量を比較したのが表65 である。「国際学部」率は,国際学科が国際学部に属する比率で,上記の通り26学科のほとんどが国際学部であるため,大分類による違いはほぼない。設置年平均は,大分類「その他」の学科の方が古く,これもやはり表5における色分けから明らかである。ST比は表5に示した入学定員を4倍し,各大学のウェブサイトで調べた最新の教員数で除した値である。大分類「その他」以外で若干小さいが,統計的に有意なほどの差ではない。

表6 統計量の比較

「国際学部」率設置年平均ST比平均複プログラム率柔軟性指数平均「国際学」率
全26学科98.5%201531.653.8%.15073.1%
大分類「その他」90.9%200832.563.6%.12090.9%
それ以外86.7%201930.946.7%.18160.0%
p値.738.006.788.391.209.079

カリキュラム関連についても,3つの観点から比較した。複プログラム率は,下位にあるプログラムが2以上である学科の比率で,大分類「その他」の学科が既存の学問分野,つまり他に10ある大分類には収まらない教育内容を提供しているとすれば,比率が高まることが予想される指標である。結果は仮説を支持しているように見えるが,サンプルサイズの問題もあり,統計的に有意とは言えない。柔軟性指数は,必修単位率をプログラム数で除した値で,0~1に分布する。学科内に下位プログラムがなく全て必修科目であれば1,同じ必修単位率ならばプログラム数が多いほど値は小さくなる。この指標は教育内容が固定化しているほど大きくなるので,複プログラム率と同じ理由で逆に,大分類「その他」では小さくなると考えられる。表6の結果は再度仮説を支持する傾向にあるが,統計的に有意ではない。学位名の「国際学」率も大分類「その他」の学科で高くなることが期待され,その通りの結果と言えるが,やはり統計的に有意な差(5%水準)は認められなかった。

4  必修単位率は,学科に必修単位数が異なる複数のプログラムがある場合,大学の公式情報において筆頭記載のプログラムに関する情報をもとに算出している。

5  p値は「率」の列ではカイ二乗検定における,「平均」の列ではt検定における有意水準。

4. 結論

4.1 考察

以下では,本稿の知見を序論で挙げたふたつの疑問,①なぜ日本には専門分野「その他」を修める学生が多いのか,②大分類「その他」の学科が他の大分類には整理されない理由は何か,に照らして再確認し,学士課程教育の質保証の文脈において考察してみたい。

第一に,学科系統分類表の歴史を振り返ると,大分類「その他」は1968年に設定され,その後現在まで大分類には変更が加えられていないことがわかった。米国や英国の専門分野分類が比較的新しい枠組みで定期的に見直されているのとは対照的であり,大分類「その他」が存続しながら新たな学科を吸収していることが,国際比較における特異性の一因と言える。また学科系統分類表が,その名の通り一義的には教員の組織である「学科」を最小単位とするため,学科に内包されるプログラムの単位で学修されている内容が統計に反映されない,という懸念も指摘しておくべきだろう。

第二に,大分類跨ぎの学科名から「国際学科」を選んで分析したところによれば,大分類「その他」の学科が他の大分類には整理されない理由として,学科の設置年は無視できず,他方でカリキュラムに関わる変数は,統計的に有意な関連にはないことが明らかになった。統計上の専門分野が教育内容を表す記号として機能するには,大分類の違いは少なからずカリキュラムの違いを反映している必要がある。しかし国際学科の事例を見る限り,2016年までに設置された学科は大分類「その他」に,2017年以降に設置された学科は大分類「その他」以外に整理される傾向にあることは否定できず6,カリキュラム構造や学位名の説明力を上回っていた。分析の対象や方法を変更する余地はあるものの,ここでも学科系統分類表の限界が垣間見えたということになる。

6  学位の分野に変更がなければ学部や学科の設置が届出によって可能となった2004年度施行の法改正(初期の解説記事として旺文社教育情報センター(2005)が,近年までの動向については鹿島(2022)がある)は,こうした傾向と無関係ではないだろう。実際2004年度以降に設置された23学科のうち18学科は組織改変(単純な改称や既存組織の募集停止を含む)に伴う設置であり,既存の学部や学科が大分類「その他」以外に分類されていた例も多い。ただし,新設であっても年により大分類が異なることや,募集停止となった既存学科とは違う大分類となることもあるため,設置経緯によって全てを説明することは難しい。

4.2 示唆

上述の考察から得られる示唆があるとすれば,ひとつは無論,専門分野別統計の根拠となる学科系統分類表の改革についてである。調査単位の細分化や大分類および中分類の改訂は,制度を変える大事とはいえ検討に値する。また学科系統分類表における各学科の位置付けは,文部科学省の提案に大学が合意する形で決定されるが7,その提案が17ある「学位の分野」のうち大学側が申告したものとどう対応するのか,あるいは大学からの修正依頼がどの程度あり,それがどれくらい認められるのかなど,不明な点も多い。学科系統分類表の使用を含めた現行調査方法の抜本的改革は措くとしても,分類決定過程の精査は不可欠と言える。

もうひとつ,幾分抽象的な関心として,学士課程教育について保証すべき質の内容的側面に関する大学側の認識も,改めて問い直す必要がある。国際学科における近年の傾向は,大分類「その他」の抑制という文部科学省側の政策転換と,文部科学省の提案に対する大学の修正依頼がほとんどないことを同時に意味している可能性がある。前者の政策転換は,大分類「その他」に属する学科とそれ以外の同名学科が,内容的に同等の学修成果を実現させているならば望ましいとの見方もできる。しかし後者の可能性は,ある意味で大学の主体性の欠如を示しているとも言える。保証すべき学修成果の内容的側面について大学側の熟考を促すには,専門分野を自己申請する形に改めることが,一案となるかもしれない8

7  この点,文部科学省の担当係に確認済みである(2021年9月29日受信の電子メール)。

8  藤原(2017)は米国におけるCIPの利用実態を報告する中で,「学部や学科を基準としたデータ収集」(34)の限界や,米国の大学が「CIPを任意で選択」(34)することを指摘している。

謝辞

本研究は科学研究費助成事業(課題番号22K18574および24K00427)を受けて実施された。

参考文献
 
© 2025 The Author(s).

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https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
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