2017 年 2017 巻 36 号 p. 109-124
1600年設立のイギリス東インド会社は勅許状により東インド貿易の独占権が与えられていた。そのため基本的に商人たちは私貿易を禁止されたものの,同社の船舶を利用して私貿易を実施する人物に対しては取扱商品と取扱量を限定した上で許可料を徴収し,私貿易が会社によって容認されていた。この取り決めに違反した場合には罰金が徴収されることと なる。17世紀半ばより徐々に私貿易に関する取り決めが整備されていく中,本社理事会では私貿易を管理することを目的に私貿易取引を帳簿へと記録するよう指示が出された。そこで,本稿では私貿易の会計処理を明らかにするとともに,帳簿記録が,許可された商品の取引(許可料勘定)と禁止商品の取引(私貿易勘定)を峻別し,私貿易商品の種類や数量,課された許可料と罰金についての全容(簿外もあるが)を把握するだけでなく,多くの罰金を科された船舶所有主との間で生じる債権・債務の相殺(調整)にも役立てられていたことを論じる。