会計史学会年報
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2017 巻, 36 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 多欄式財務諸表に関する議論を中心として
    竹島 貞治
    2017 年 2017 巻 36 号 p. 1-23
    発行日: 2017年
    公開日: 2022/07/05
    ジャーナル フリー
    G. H. Sorter 教授は,今からおよそ50年前に「基礎的会計理論への事象アプローチ」と題する論文をThe Accounting Reviewに発表し,この論文において「事象アプローチ(events approach)」と称する会計への新たなアプローチを提唱した。Sorterはこの論文において伝統的会計理論および会計実践に対してさまざまな提案を行っていたが,それらの提案の一つに多欄式財務諸表に関するものがある。多欄式財務諸表のアイディアは,ASOBATにおいてはじめて公式見解として提出されたが,当時はほとんど注目されなかった。だが,近年,公正価値や包括利益のような現代的課題との関連で再び注目を集めている。本稿では,多欄式財務諸表のアイディアを中心に,Sorter[1969] の理論的源泉およびその現代会計への展開過程をかえりみて,Sorter[1969] の議論内容との共通点および相違点を浮き彫りにし,事象アプローチに関する一連の議論が現代会計に対して示唆することについて考えていく。
  • 日本の実証的証拠から
    薄井 彰
    2017 年 2017 巻 36 号 p. 25-32
    発行日: 2017年
    公開日: 2022/07/05
    ジャーナル フリー
    本論文は,歴史的および数量的な観点から費用と収益の対応を説明している。発生主義会計において,費用収益対応原則は期間損益を測定する際の要諦である。第2次世界大戦後,日本は積極的に米国の会計制度を導入した。1949年,経済安定本部の企業会計制度対策調査会は,「企業会計原則」の損益計算書原則に費用収益対応原則を採用した。それ以来,日本は費用収益対応を維持してきた。しかしながら,近年,米国,日本,および世界各国で費用と収益の対応関係は弱まっている。費用と収益をどの段階の利益概念で対応させるかは,制度設計の問題である。日本は,戦後,「売上総利益」,「営業利益」,「経常利益」,および「当期純利益」というように段階的に利益を開示することによって,会計制度としての費用収益対応関係の維持を図った。公正価値会計のもとで資産と負債の価格変動リスクを加味しながら,包括利益の段階で費用と収益の対応をどのように実現するかは今日的課題である。会計学の実証研究は,会計制度の生成と変革に関する歴史的な事実を観察し,会計行動の因果関係の解明に貢献することが期待される。
  • 高梠 真一
    2017 年 2017 巻 36 号 p. 33-52
    発行日: 2017年
    公開日: 2022/07/05
    ジャーナル フリー
    本稿では,一次資料に基づく管理会計史研究の意義を検討すると共に,具体的ないくつかの事例を用いて,これまでの管理会計史研究では十分に認識されてこなかった視点を抽出し,管理会計史研究の役割について考察する。具体的には,事例として,19世紀中期のウェスタン鉄道,19世紀後期のカーネギー・スティール社,20世紀初頭のデュポン火薬会社,20世紀前半のデュポン社,およびジェネラル・モーターズ社を取り上げ,各会社において,管理会計機能が展開されていた事実を一次資料に基づいて検証し,それらを再構成することによって,若干の結論(あるいは仮説)を導き出す。 そして,管理会計史研究を行う際には,まず事実の正確な認識が大切であり,事実の正確な認識が,論理的な事実の再構成を可能にし,説得力のある論理の構築を導くと考えられるが,本稿では,上記のような研究プロセスを具体的に示すことによって,一次資料を用いた分析から得られた検証結果に基づいて再構成される認識・論理が,現在および未来の管理会計の理解・解釈に対して,いかなる役割を果たすことができるかを検討する。
  • 村田 直樹
    2017 年 2017 巻 36 号 p. 53-69
    発行日: 2017年
    公開日: 2022/07/05
    ジャーナル フリー
  • 1799年から1801年Reid, Beale, Hamilton and Shank商会のLedger元帳
    山口 不二夫
    2017 年 2017 巻 36 号 p. 71-84
    発行日: 2017年
    公開日: 2022/07/05
    ジャーナル フリー
    英国Cambridge大学の図書館のManuscript Roomには、1799年-1801年にかけてのReid, Beale, Hamilton and Shank商会の史料が保管されており,本稿はその中の Ledger元帳A(史料番号A-1/2)の検討を行う。同商会は19世紀初頭のアジアの海域で貿易に従事したCountry Traderでpartnership制をとっていた。その簿記では,記帳の目的は,勘定の管理が一番大きい。勘定科目では人名勘定が圧倒的に多いことから,貸し借り,それに伴う金利、 手数料の管理が重要であった。 もう一つの目的は剰余の確定と分配の実施である。株式の公正な価値での取引ということが難しいpartnership会社では,純財産(剰余金を含んだ資本)が法人の財産という視点は乏しい。特にこの当時のCountry Traderは短期で資本を引き揚げる。そのため利益はすべて分配し、新たに事業にお金が必要なら出資なり個人で出す,その記録が帳簿である。そのような利益の測定と分配の役割もこの帳簿の仕組みで十全に機能したと考えられる。本稿により利益の計算手順はわかったので、この後の期に拡張し,データの変化を追い,どのような経緯で計算構造の変化が生ずるのかの究明が今後の課題である。
  • 白坂 亨
    2017 年 2017 巻 36 号 p. 85-107
    発行日: 2017年
    公開日: 2022/07/05
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,幕末から明治初期におけるわが国の西洋式簿記・会計の導入過程に関して,新たな知見を得ることにある。分析対象は造幣寮(現独立行政法人造幣局)の会計である。新たな資料を確認できたことにより,造幣寮の会計について検討する。 そもそもなぜ,造幣寮の会計を分析対象としたのかというと,造幣寮には会計担当者としてV.E.ブラガがいたにもかかわらず,この造幣寮という組織において如何なる簿記・会計がなされてきたのか,これまでほとんど明らかにされてこなかったからである。 そこで今回,見過ごされてきた資料があるのではないかと調査を進めたところ,新たな資料を数点見出すことができたので,それらの資料の分析・検討により造幣寮における簿記・会計の再評価の可能性をはかる。 新たに確認できた資料によれば,明治初期における洋式簿記・会計制度の導入に関する従来の認識とは異なる事実がいくつか判明した。 日付と文書の宛先を考慮すれば,新たに確認した「造幣寮銀地金関係諸勘定書」は『銀行 簿記精法』に影響を与えたとも考えられるのである。
  • 会計帳簿における私貿易の許可料と罰金の管理
    杉田 武志
    2017 年 2017 巻 36 号 p. 109-124
    発行日: 2017年
    公開日: 2022/07/05
    ジャーナル フリー
    1600年設立のイギリス東インド会社は勅許状により東インド貿易の独占権が与えられていた。そのため基本的に商人たちは私貿易を禁止されたものの,同社の船舶を利用して私貿易を実施する人物に対しては取扱商品と取扱量を限定した上で許可料を徴収し,私貿易が会社によって容認されていた。この取り決めに違反した場合には罰金が徴収されることと なる。17世紀半ばより徐々に私貿易に関する取り決めが整備されていく中,本社理事会では私貿易を管理することを目的に私貿易取引を帳簿へと記録するよう指示が出された。そこで,本稿では私貿易の会計処理を明らかにするとともに,帳簿記録が,許可された商品の取引(許可料勘定)と禁止商品の取引(私貿易勘定)を峻別し,私貿易商品の種類や数量,課された許可料と罰金についての全容(簿外もあるが)を把握するだけでなく,多くの罰金を科された船舶所有主との間で生じる債権・債務の相殺(調整)にも役立てられていたことを論じる。
  • 王子製紙決算報告書を用いた固定資産の勘定明細の分析
    山下 修平
    2017 年 2017 巻 36 号 p. 125-138
    発行日: 2017年
    公開日: 2022/07/05
    ジャーナル フリー
    本稿は、固定資産の勘定明細を分析することにより、戦時期における減価償却の実務を明らかにすることが目的である。戦時期は、会計規制の近代化に貢献したと指摘される会社経理統制令(1940年)をはじめとする諸法令が制定された時期である。一次史料である王子製紙決算報告書を用いて、減価償却実務の一端を明らかにするとともに、経理統制が実務に対して与えた影響を考察した。 1941年に、固定資産に係る会計諸表や科目名に変化が生じ、減価償却費の計上は銭単位の端数まで行うようになった。また、金額的重要性の高い固定資産項目に対して重点的に償却を行っている傾向が確認された。会計処理の変化は、会社経理統制令の制定時期と重なり、法令の影響を受けたものと推察される。また、1942年には会社固定資産償却規則が制定されており、減価償却の実務に影響を与えていたものと考えられる。他方、固定資産の項目ごとに着目すると、減価償却の規則的な手続きは見られず、計算規程の浸透には時間を要した可能性がある。
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