会計史学会年報
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戦時期の経理統制下における会計表示実務の満洲への展開
製紙業における勘定科目の標準化を事例に
山下 修平
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2019 年 2019 巻 38 号 p. 31-46

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抄録

本稿は,戦時期の決算報告書を用いて,会計実務の日本本土から満洲への展開の一端を明らかにすることが目的である。具体的には,満洲に所在していた製紙会社の決算報告書を用いて,勘定科目の標準化の過程を明らかにする。 戦時期には,会社経理統制令(1940年)をはじめとする会計に関する諸法令が制定された。国による監督・統制や,産業合理化の観点から,勘定科目の標準化が必要とされた。本稿は,1937年から1944年を分析対象とし,満洲の鴨緑江製紙・六合製紙・安東造紙における決算報告書の総勘定元帳を利用して,勘定科目の変遷を分析した。 1941年上期から1941年下期にかけて,勘定科目数が増加し,その名称についても多くの変化が生じていた。対象とした3社の勘定科目名の一致率は,9割弱にまで達し,その標準化が進んだことが明らかになった。日本本土の王子製紙における勘定科目の標準化から,半年遅れて満洲に伝播したことになる。 戦時期という特殊な時代背景のなか,満洲の比較的規模の小さな会社にまで同一の会計実務が広まる契機になったことを示唆するものであると言える。勘定科目の標準化は,産業の合理化を進め,ひいては植民地経営に寄与していた可能性がある。

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© 2019 日本会計史学会
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