会計史学会年報
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フランス・ドイツ・日本における資本制度導入前の積立金をめぐる出資者・経営者間の合意と「拠出資本と留保利益の区別」の想定との結び付き
石川 業
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2020 年 2020 巻 39 号 p. 59-76

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抄録

拠出資本と留保利益の区別」が内外の会計基準や法律上で後退しつつある。ただそれはなお法規上の動向であって,実務上の「区別」のあり方は別個の研究対象となる。そもそも歴史を遡ると「区別」は法規以前の自発的な実務から始まっていた。この起源に照らして,時空を異にしながら法規からの独立性で近似する,現在の日本における実務上の「区別」の因果関係も説明可能な仮説を構築することが,本稿の主題である。そのための調査対象は,沿革を辿りフランス・ドイツそして日本自身の,資本制度導入前における企業定款とする。そこから,任意的な積立金に関する当事者間の合意が資本金と積立金の「区別」に結び付く想定,つまり強制的な債権者保護以前の,出資者・経営者間での財産分配をめぐる任意的な利害調整のために「区別」が生じてきた過程・起点を見出せる。定款をみた背景には実務上の「区別」を示す史料の制約もあるが,事後の概観的な決算書からは察しにくい「区別」の原因でも,事前に当事者が合意した定款でこそ遡りやすいという積極的な理由もある。その調査で日本の,より内生的な会計史から現在へと及ぶ,任意的な「区別」も説明できる仮説が構築されてくる。

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© 2020 日本会計史学会
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