2006 年 15 巻 3 号 p. 249-265
隠岐から能登へかけての沿岸域における夏季の海流構造を明らかにするために,2000年7月,2001年6月および2001年7月にADCPとCTD観測を実施した。2000年7月および2001年6月の観測では,隠岐海峡を通過した東向流,すなわち対馬暖流沿岸分枝が丹後沖まで認められた。さらに,沿岸分枝の北側には,隠岐諸島東方を南下して丹後沖に向かう流れが観測された。この流れは,沿岸分枝とは水塊特性が異なっていた。上記2つの流れは,金沢沖においては,2000年7月では北側の流れが,2001年6月では両者ともほとんど確認できなかった。これは,丹後沖でみられた沿岸分枝と北側の流れが,2000年7月ではその一部が,2001年6月ではその大半が,金沢沖で接岸していた暖水渦の縁に沿うような形で西に反転して,沖方向に流れの向きを変えたためであると考えられた。2001年7月には他の2回の観測とは異なり,隠岐海峡から鳥取沖へかけての流れは非常に弱かったが,丹後以東から能登沿岸では明確に東向流が観測された。この東向流は,その水塊特性から,沿岸分枝ではなく,沖合に分布する流れが南下・接岸したものであることが示された。2001年7月において沿岸分枝が弱まった原因の一つとして,同時期の暖水渦の隠岐諸島への接岸の影響が考えられた。今回の観測結果から,暖水渦が隠岐から能登へかけての沿岸域の海流構造に大きな影響をおよぼし,安定していると考えられていた沿岸分枝の流路が,暖水渦の影響を受けて大きく変化していたことが示された。