北太平洋亜熱帯循環域の中層に広く分布する塩分極小(北太平洋中層水)の形成・変質メカニズムと長期変化について,私は,主に観測に基づき実証的な研究を行ってきました。まず,黒潮続流における明瞭な塩分極小に注目し,続流に存在する準定常的な蛇行よりも短い波長約200 kmの波動を続流中層で観測し,その波動に伴って鉛直的に明瞭な塩分極小が観測されることを発見し,波動に伴う三次元的な流れの場の推定を行いました。さらに,理論的な考察により,この波動が傾圧不安定で発達し得ることを示し,それが黒潮続流周辺での北太平洋中層水の変質過程に強くかかわるものであることを示しました。また,10-20年間隔で行われた観測データを用いて塩分極小上下の層で特徴的な変化を検出し,その変化が塩分極小の低密度化によって解釈されることを示しました。この変化は,近年オホーツク海周辺で観測されている変動とも整合的であり,長期的な気候変動を反映している可能性があります。ここでは,これら一連の研究内容について概説します。