2020 年 29 巻 2 号 p. 19-36
日本近海の海面水温(SST)に見られる十年規模変動の特性を,大気循環場との関係や季節による相違に着目して調べた。日本近海を対象とした経験的直交関数(EOF)解析の結果から,通年の第1モードは冬季の第1モードに,通年の第2モードは夏季の第1モードに対応し,日本近海SSTの十年規模の主な変動が冬季と夏季における卓越モードの足し合わせで表現できることが分かった。冬季の第1モードの空間パターンは九州西方の東シナ海で振幅が大きく,この海域でSSTが低い時期には日本周辺で寒気を伴った気圧の谷の存在が示され,日本近海の冬季のSST の変動には東アジアモンスーンの変動の影響が大きいとする過去の研究と一致した。一方,夏季の第1モードは,北海道周辺海域で振幅が大きく,冬季の西太平洋熱帯域のSST及びその周辺の外向き長波放射量と相関が高いことが分かった。これは,夏季のSSTの十年規模変動が熱帯の対流活動の影響を受けた中高緯度の対流圏温度の上昇と関連する可能性を示唆する。