海の研究
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29 巻, 2 号
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原著論文
  • 吉田 久美, 北村 佳照, 中野 俊也
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 29 巻 2 号 p. 19-36
    発行日: 2020/03/15
    公開日: 2020/03/27
    ジャーナル フリー

    日本近海の海面水温(SST)に見られる十年規模変動の特性を,大気循環場との関係や季節による相違に着目して調べた。日本近海を対象とした経験的直交関数(EOF)解析の結果から,通年の第1モードは冬季の第1モードに,通年の第2モードは夏季の第1モードに対応し,日本近海SSTの十年規模の主な変動が冬季と夏季における卓越モードの足し合わせで表現できることが分かった。冬季の第1モードの空間パターンは九州西方の東シナ海で振幅が大きく,この海域でSSTが低い時期には日本周辺で寒気を伴った気圧の谷の存在が示され,日本近海の冬季のSST の変動には東アジアモンスーンの変動の影響が大きいとする過去の研究と一致した。一方,夏季の第1モードは,北海道周辺海域で振幅が大きく,冬季の西太平洋熱帯域のSST及びその周辺の外向き長波放射量と相関が高いことが分かった。これは,夏季のSSTの十年規模変動が熱帯の対流活動の影響を受けた中高緯度の対流圏温度の上昇と関連する可能性を示唆する。

総説
  • 黒田 一紀
    原稿種別: 総説
    2020 年 29 巻 2 号 p. 37-53
    発行日: 2020/03/15
    公開日: 2020/03/27
    ジャーナル フリー

    「海洋學談話會」は,農林省水産試験場の宇田道隆の発起により,海洋学に関する論著の紹介,試験研究成果の発表,および各職場の会員間の交流を目的として,1932年4月に開始された。東京・月島の水産試験場で月2 回木曜日の例会は1941年2月の172回まで続き,実講演者は80名,延べ話題提供数は506件に達した。この実績に伴う海洋学への情熱と連携の高まりによって提唱された日本海洋学会の創立は,海洋気象台(神戸)に既存していた「海洋学会」と話合いが行われたが,1937年前半に不調に帰した。その後,1939年末における標準海水準備委員会の立上げを切掛けとして,「海洋學談話會」と「海洋学会」との間に妥協が成立し,1941年1月28日に創立に至った。ここでは,「海洋學談話會」の発起,内容,切掛けおよび母体から日本海洋学会創立への紆余曲折の経緯を調べたので,関係科学者の役割も含めて報告する。

    キーワード:海洋 學談話會,海洋学会,日本海洋学会,宇田道隆,日高孝次

2019年度日本海洋学会岡田賞受賞記念論文
  • 児玉 武稔
    原稿種別: 総説
    2020 年 29 巻 2 号 p. 55-69
    発行日: 2020/03/15
    公開日: 2020/03/27
    ジャーナル フリー

    日本近海域の環境の解明は,海洋と海洋資源を持続可能な形で利用する上で必須である。本稿では,黒潮・対馬暖流域において,日常的に観測されている栄養塩濃度ならびに動物プランクトン個体数に着目した低次生態系に関する筆者の研究を紹介する。まず,栄養塩環境について黒潮域,東シナ海,日本海対馬暖流域の各海域で異なる特徴の栄養塩環境が存在していた。四季を通じた黒潮の観測からは,下層からの栄養塩供給の時空間的な違いが海域の栄養塩濃度の違いを引き起こしていた。一方,黒潮上流域や対馬暖流域の夏季の観測からは,水平移流の重要性が示された。また,アンモニウム塩濃度をナノモラーレベルで検出する高感度分析法を開発し,動物プランクトンの窒素排泄の研究に応用した。次に,日本海対馬暖流域の動物プランクトン群集動態の解明に取り組んだ。春季の沿岸域では対馬暖流の沿岸分枝による水平移流がプランクトン群集の空間的な違いを形成していた。夏季の日本海南西部では水温の上昇とともに尾虫類の現存量が大きくなり,さらに尾虫類を利用する生態系が形成されていた。これらのことは貧栄養で均質的と考えられてきた黒潮・対馬暖流域においても,海域・季節毎の物理・化学環境の違いに駆動される異なる低次生態系が存在することを示している。

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