化学工学論文集
Online ISSN : 1349-9203
Print ISSN : 0386-216X
ISSN-L : 0386-216X
エネルギー
水素液化システムのエクセルギー評価
名久井 恒司 秋山 友宏
著者情報
ジャーナル 認証あり

2019 年 45 巻 2 号 p. 100-107

詳細
抄録

各種水素キャリアのエクセルギー効率を解析するためには,キャリアの生成,水素分離等の条件設定が必要である.液体水素をキャリアとする場合は,多数の冷凍サイクル段ごとに「エクセルギー損失の最小化」(以下「最適化」)を図ったうえで,システム全体の最適条件を見出すことのできる適切なパラメータを持つモデルを用いる.本研究で構築したモデルは,熱交換温度領域に応じた複数の冷凍サイクルからなる.冷凍各サイクル段は逆ブレイトンサイクルを基本とし,圧縮器,膨張器および熱交換器を含む.予冷各段の冷熱供給量が最大になるサイクルを試行錯誤により定め,各サイクルの最適化を図った.

モデルによるシミュレーションの結果,システム全体の最適化を見出すためのパラメータとして,水素液化サイクル内で水素の一部を膨張タービンに分流する率(e)が適切であることがわかった.水素液化サイクルを予冷する段で用いることが可能な冷媒は純物質としては水素,ヘリウムおよびネオンに限られるので,その3種の冷媒の比較を行うこととし,予冷サイクル段で用いる冷媒の種別ごとにeの値の変化にともなう冷熱供給必要量およびエクセルギー損失量の変化を見た.その結果,(i)冷熱供給必要量およびエクセルギー損失量の変化はトレードオフの関係にあり最適条件を定める手掛かりになること,(ii) e全域にわたり水素とヘリウムの間の差は小さく,両者はネオンに勝っていること,および(iii)水素またはヘリウムとネオンの差が小さくなる領域もあること,との知見を得た.第3の知見からは,タービンを回すのに有効な比重が大きいという特長を持つネオン,またはヘリウムとネオンの混合流体(nelium)が相対的に有利となる範囲が推定できる.また,予冷サイクルを使うとクロウドサイクルに比べ正味仕事量(エクセルギー変化量)を小さくすることができることも見出された.

著者関連情報
© 2019 公益社団法人化学工学会
前の記事
feedback
Top