抄録
今回,安土桃山時代の経穴研究の一例として『黄帝明堂灸経不審少々』を検討した。同書は曲直瀬道三とその門人・秦宗巴との間でやりとりされた経穴に関する問答書簡を録したものであった。同書は,江戸時代以降に活発に行われる経穴研究の萌芽とも言える時期に行われた,経穴研究の実態を残す良質な資料であった。
曲直瀬道三は諸書を参看,また当時最新の経穴学を取り込み,あるいは師説や臨床経験と照らして経穴部位の考訂を行っていた。その研究は『明堂灸経』『銅人腧穴針灸図経』を経て,『十四経発揮』を中心に行うに至っていた。秦宗巴は経穴部位の諸説を比較検討し,師・道三に質問を提示していた。
これまで内容が詳しく検討されていなかった『黄帝明堂灸経不審少々』を取りあげ,未だ詳細が未解明である安土桃山時代の経穴研究の一端を明らかにすることができた。