日本東洋医学雑誌
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66 巻, 1 号
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原著
  • —安土桃山時代の経穴研究の一例として—
    天野 陽介
    2015 年 66 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/29
    ジャーナル フリー
    今回,安土桃山時代の経穴研究の一例として『黄帝明堂灸経不審少々』を検討した。同書は曲直瀬道三とその門人・秦宗巴との間でやりとりされた経穴に関する問答書簡を録したものであった。同書は,江戸時代以降に活発に行われる経穴研究の萌芽とも言える時期に行われた,経穴研究の実態を残す良質な資料であった。
    曲直瀬道三は諸書を参看,また当時最新の経穴学を取り込み,あるいは師説や臨床経験と照らして経穴部位の考訂を行っていた。その研究は『明堂灸経』『銅人腧穴針灸図経』を経て,『十四経発揮』を中心に行うに至っていた。秦宗巴は経穴部位の諸説を比較検討し,師・道三に質問を提示していた。
    これまで内容が詳しく検討されていなかった『黄帝明堂灸経不審少々』を取りあげ,未だ詳細が未解明である安土桃山時代の経穴研究の一端を明らかにすることができた。
臨床報告
  • 津曲 淳一, 田原 英一, 矢野 博美, 土倉 潤一郎, 益田 龍彦, 犬塚 央, 田沼 龍太郎, 三潴 忠道
    2015 年 66 巻 1 号 p. 8-12
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/29
    ジャーナル フリー
    一般的な腹痛の治療には桂枝加芍薬湯や小建中湯等が用いられるが,それらが無効の腹痛に甘麦大棗湯が奏効した2症例を経験した。症例1は17歳の女性。腹部膨満感と腹痛のために来院した。桂枝加芍薬湯や小建中湯は無効であった。不安を感じると腹痛が悪化したので,甘麦大棗湯を投与したところ,約1ヵ月半程度で症状は消失した。症例2は13歳の男性。上腹部痛で来院した。小建中湯は無効であった。部活動や学校に対する不安が強いことが分かり,甘麦大棗湯に転方したところ約1ヵ月後に症状は消失した。腹痛に対して桂枝加芍薬湯や小建中湯が無効の者に,心理的背景を参考にして甘麦大棗湯は試みられて良い方剤と思われた。
  • —眼科漢方30年の経験から—
    山本 昇吾, 藤東 祥子
    2015 年 66 巻 1 号 p. 13-21
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/29
    ジャーナル フリー
    【目的】原発開放隅角緑内障に対して,標準的治療を基本にして長期にわたり漢方治療を行った症例を呈示し,緑内障治療における漢方の意義について考察する。
    【症例】症例1は,男性で初診時17歳の原発開放隅角緑内障症例である。34年間で3度手術を行ったが,漢方治療を継続しながら経過を観察し得た症例である。症例2は,女性で初診時56歳,初診より約30年前に原発開放隅角緑内障と診断されたが,その後希望により漢方治療を19年間継続している症例である。いずれも失明状態になることが危惧されていたが,漢方治療を継続することにより視機能を維持し,眼圧もコントロールすることができた。症例3は,女性で初診時23歳,漢方内服中に眼圧は正常範囲に低下し,内服中止により眼圧上昇を示した。
    【考察】原発開放隅角緑内障における眼圧上昇に対して有効な特定の処方名は挙げられないが,少しでも有効な漢方方剤はある。また,漢方を継続的に服用することは視機能維持にも有効である可能性がある。
    【結語】漢方薬は原発開放隅角緑内障の眼圧低下及び視機能維持の補助的治療に用いて有効である。
  • 白井 明子, 小川 真生, 広田 京子, 吉崎 智一, 小川 恵子
    2015 年 66 巻 1 号 p. 22-27
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/29
    ジャーナル フリー
    滋陰至宝湯は『万病回春』巻之六・婦人虚労門収載の中国・明時代(1368~1644)の方剤で,気鬱を伴う慢性咳嗽に有効であるとされている。滋陰至宝湯は,その構成生薬から,滋養し,虚熱を冷まし,気を巡らせ,消化機能を高めるという滋陰清熱,理気健脾の方剤と言える。
    今回われわれは,本方剤が奏効した舌痛症,咽喉頭異常感症の3症例を経験した。口渇,口乾,粘稠痰といった陰虚症状を伴い,腹部右側の鼓音をはじめとする気鬱の症候を認める舌痛症,咽喉頭異常感症には,滋陰至宝湯は有効な処方となり得ると考えた。
  • 山川 正, 鈴木 淳, 永倉 穣, 重松 絵理奈
    2015 年 66 巻 1 号 p. 28-33
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/29
    ジャーナル フリー
    糖尿病患者の不眠の頻度は高く,睡眠の質の低下はHbA1c の上昇との関連が認められており,不眠の改善が重要である。今回,酸棗仁湯が2型糖尿病患者の不眠に有効であった2症例を経験した。症例1は58歳男性。罹病期間10年の糖尿病で,インスリンにてHbA1c は7%代であった。数ヵ月前より不眠となり,酸棗仁湯を投与し2週間で不眠は消失した。症例2は79歳男性。罹病期間15年の糖尿病で,経口薬にてHbA1c は7%代。1年前より不眠症となり,酸棗仁湯投与にて,不眠は徐々に改善した。酸棗仁湯は2型糖尿病患者の不眠に有用であると思われた。
  • 櫻井 貴敏, 青山 幸生, 齋藤 紀彦
    2015 年 66 巻 1 号 p. 34-39
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/29
    ジャーナル フリー
    【目的】我々の2次救急現場では,急性胃腸炎による腹痛などの入院を要しない疼痛患者をよく経験する。
    そこで,四肢の疼痛,胆石の疝痛発作などに頓服として用い,鎮痛効果があると報告されている芍薬甘草湯が,救急外来における急性疼痛症例に対し,有効であるかについて,検討した。
    【方法】平成23年8月から11月までの期間,救急外来に救急車で搬送され,疼痛を主訴とする患者のうち,理学的,画像診断にて,生命の危機を除外できる30症例を対象とした。
    芍薬甘草湯エキス剤2.5gを投与し,30分後に疼痛の改善の有無を判定した。有効性はvisual analog scale(VAS)を用いて投与前後で評価した。
    【結果】全症例の投与前後のVAS 平均値が投与前71.03 ± 19.42mm から投与後34.86 ± 34.89mm(P < 0.01)へ有意に変化した。
    【考察】芍薬甘草湯は救急外来における疼痛軽減に有効である。特に,急性胃腸炎による疼痛軽減に有効である。
  • 吉永 亮, 前田 ひろみ, 伊藤 ゆい, 上田 晃三, 土倉 潤一郎, 井上 博喜, 矢野 博美, 津曲 淳一, 犬塚 央, 田原 英一
    2015 年 66 巻 1 号 p. 40-44
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/29
    ジャーナル フリー
    医学的に原因を特定できない高齢者の胸腹部症状に対して大柴胡湯を中心とした処方が奏効した2例を報告する。1例目は81歳の男性。胸部圧迫感が出現し,頻度が増加したため入院して精査を行ったが明らかな異常を認めなかった。便秘,胸脇苦満を目標に大柴胡湯を投与した。3ヵ月後には胸部圧迫感が消失し,気鬱スコアやSDS も改善した。2例目は83歳の男性。多発外傷後より,心窩部痛,胸腹部圧迫感,腹部膨満感が約2年間持続していた。心窩部痛と便秘,胸脇苦満を目標に大柴胡湯を投与したところ徐々に心窩部痛,胸腹部圧迫感の症状が改善し不定期受診の回数も減少した。大柴胡湯は抑うつ症状を伴い,医学的に原因が特定できない胸腹部症状に対して考慮すべき方剤である。
  • 吉野 鉄大, 清水 芳政, 秋葉 哲生, 渡辺 賢治
    2015 年 66 巻 1 号 p. 45-48
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/29
    ジャーナル フリー
    麦門冬湯を,咳嗽ではなく嘔吐に応用した報告は少ない。症例は84歳男性。78歳時に重複早期胃癌 stage ⅠA に対して幽門側胃切除術,ビルロートⅠ法再建を施行された。術後に逆流感と嘔吐が持続し,制酸薬や制吐薬で改善しなかった。通過障害が疑われて80歳時に残胃空腸吻合術を施行されたが,その後も症状が持続した。再び制酸薬や六君子湯,大建中湯が試みられたが効果がなく,漢方治療目的で当外来を受診した。嘔吐は明け方に胃酸だけを吐出していた。腹部に明らかな理学所見上の異常を認めず,採血や各種画像検査でも異常を認めなかった。半夏瀉心湯,真武湯の効果は限定的だった。初診から2ヵ月後,嘔吐を大逆上気ととらえて麦門冬湯に転方したところ3週間後には嘔吐の回数が減少し,その2週間後には嘔吐がほぼ消失した。『金匱要略』の大逆上気を嘔吐と捉えることで麦門冬湯の応用範囲がひろがるのではないかと考えられた。
  • 八木 宏, 西尾 浩二郎, 佐藤 両, 川口 真琴, 小堀 善友, 芦沢 好夫, 宋 成浩, 新井 学, 岡田 弘, 土佐 寛順
    2015 年 66 巻 1 号 p. 49-53
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/29
    ジャーナル フリー
    抗コリン剤やα阻害剤に抵抗性を示す男性LUTSに八味地黄丸を処方した30症例を対象として,治療前後のIPSS,排尿QOL, UFM,尿中8-OHdG,血清CD4/CD8比及びNK 活性を調査して八味地黄丸のQOL,排尿機能,酸化ストレス,免疫機能に与える改善効果を評価した。結果はUFM,免疫機能以外の評価項目において有意に改善した。本研究では抗コリン剤やα阻害剤に抵抗性を示す男性LUTS に対して,和漢診療学的腎虚の徴候を認めれば八味地黄丸が排尿症状,QOL,酸化ストレスを短期間の評価ながら改善する事を示した。今後,八味地黄丸の長期投与の治療効果を排尿障害治療薬,ならびに抗加齢薬としての側面から評価する必要が有る。
  • 井上 博喜, 大田 静香, 上田 晃三, 吉永 亮, 前田 ひろみ, 伊藤 ゆい, 土倉 潤一郎, 矢野 博美, 犬塚 央, 山口 昌俊, ...
    2015 年 66 巻 1 号 p. 54-60
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/29
    ジャーナル フリー
    全身性強皮症と原発性胆汁性肝硬変を合併した症例に,黄連解毒湯(万病回春)と赤丸料の併用が奏効した一例を報告する。症例は68歳の女性。20年前に原発性胆汁性肝硬変,17年前に全身性強皮症と診断された。皮膚瘙痒感と皮膚硬化に対して西洋医学的治療を受けたが改善せず,漢方治療を希望し当科を受診した。黄連解毒湯(万病回春)を処方したところ,5日後までに瘙痒感は消失した。また,強い冷えに対して赤丸料を併用したところ,皮膚の軟化を認めるようになった。本症例は陽証と陰証の併病であったと考えられた。
調査報告
  • 新谷 壽久
    2015 年 66 巻 1 号 p. 61-66
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/29
    ジャーナル フリー
    『皇漢医学』を著わした湯本求真の処方傾向を知る目的で湯本医院の診療録を調査した。『皇漢医学』を著わす少し前と思われる時期の199症例を対象とした。柴胡剤(大柴胡湯,小柴胡湯,柴胡桂枝乾姜湯)は54%に用いられていた。当帰芍薬散,桃仁承気湯,大黄牡丹皮湯,桂枝茯苓丸を駆瘀血剤とすると,駆瘀血剤は76%に用いられていた。更に併用方剤として黄解丸が43%に用いられていた。2剤~4剤の合方が多く,その特徴は柴胡剤と駆瘀血剤と黄解丸との組合せであった。代表的組合せは1)大柴胡湯 + 桃仁承気湯21例,1)小柴胡湯 + 当帰芍薬散(平均2倍量)21例,3)大柴胡湯 + 当帰芍薬散(平均2倍量)11例,4)柴胡桂枝乾姜湯+当帰芍薬散(平均2倍量)9例,5)大柴胡湯+桃仁承気湯 + 大黄牡丹皮湯5例であった。改めて柴胡剤と駆瘀血剤との組合せで多数症例の根本治療を試みていたことを確認した。
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