2002 年 53 巻 5 号 p. 515-519
抗生物質治療に抵抗性であった84歳男性の敗血症患者に対して, 黄耆建中湯が奏功した症例を経験した。患者の血液培養からは継続してクレブシエラが検出され, 明らかで無いながら感染源として腸管からの bacterial translocation が疑われた。2週間の抗生物質治療にも関わらず弛張熱と血液培養陽生が持続し, 菌交代現象が示唆された。このため抗生物質を中止の後, 黄耆建中湯単独にて加療したところ徐々に発熱, 炎症反応の低下が見られ, 抗生物質を再開することなく血液培養も陰性化し, 患者は完全に回復した。黄者建中湯は「虚労を治す」とされているが, 敗血症治療に奏功したとの報告は見られない。機序は明らかでないが, 黄耆建中湯が特に高齢者や免疫機能低下状態の重篤な感染症の治療に有用である可能性が示唆された。