人間と環境
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原著
ヒユ科植物フダンソウ(Beta vulgaris var. cicla)の耐塩反応に及ぼすベタシアニンの関与
前田 良之大島 宏行澁谷 陽平
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2020 年 46 巻 2 号 p. 3-13

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抄録

本研究は抗酸化能をもつベタシアニンを含有するフダンソウの耐塩反応をナトリウム(Na)イオンの侵入抑制と酸化ストレス軽減の観点からホウレンソウと比較検討した。その結果,耐塩性はホウレンソウよりもフダンソウで高かった。ホウレンソウのNa含有量はNa処理により根部,地上部ともに増加した。細胞膜ATPase活性,グリシンベタイン含有量から検討した根部のNa侵入抑制能力はフダンソウよりも小さかった。一方,フダンソウのNa処理による体内Na含有量の増加パターンはホウレンソウと大きく異なった。すなわち,生育が維持されたNa処理濃度(生育維持濃度)以内では処理濃度の増加とともに地上部のNa含有量は増加した。しかし,それ以上の処理濃度では増加しなかった。逆に,根部のNa含有量はNa処理により増加したものの,生育維持濃度以内では変化せず,その濃度を超えると急激に増加した。過酸化水素含有量とSOD活性は両植物ともにNa処理によって高まったが,ホウレンソウのこれら値は生育維持濃度で,フダンソウの値は生育阻害濃度でそれぞれ著しく増加した。ホウレンソウのカタラーゼ活性はNa処理によって,フダンソウの活性は生長阻害濃度で著しく増加した。一方,ベタシアニン含有量はNa処理の有無や濃度に関わらず変化せず,フダンソウの地上部に一定量存在した。

以上の結果,植物体内に過剰に侵入したNaの排除・体内分配の方法と割合などの耐塩応答は両植物間で大きく異なった。本試験で注目したベタシアニンはNa処理によって変化しなかったが,少なくとも生育阻害濃度よりも低いNa濃度条件下で酸化ストレス低減に寄与し,結果としてフダンソウの耐塩性を高めている可能性が示唆された。

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