2012 年 86 巻 2 号 p. 115-120
MRSA の院内伝播を防止するには,サーベイランスが重要であり,感染源の特定や感染経路の究明には分子疫学解析法 (PFGE 法) が用いられてきた.しかし本法は処理時間が長く煩雑なことから,日常業務への導入は困難であった.今回,短時間で再現性良く測定可能な POT 法による分子疫学解析キットが開発されたため,2010 年入院患者から新規に検出された MRSA 192 例について解析を行い,院内伝播制御における有用性を検討した.
これまで MRSA サーベイランスに用いてきた検出タイミングによる方法では 2010 年における院内伝播を疑う症例は 118 例であった.しかし POT 法を導入し,場所 (病棟,移動情報) と時間的背景 (入院日,検体採取日) を考慮することで,院内伝播が強く疑われる患者 38 例の抽出が可能であった.この結果を臨床現場に示すことで,感染対策室は確信を持って院内伝播の実態を示すことができた.POT 法は特殊な解析ソフトも必要なく,泳動後のバンドの有無をもとに簡単に数値化できることから,菌株間の比較やデータ管理に極めて有用であった.