感染症学雑誌
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令和元年度北里柴三郎記念学術奨励賞受賞記念論文
慢性肺アスペルギルス症の病態,治療戦略,および薬剤耐性の諸問題
田代 将人髙園 貴弘泉川 公一
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2023 年 97 巻 3 号 p. 75-89

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抄録

慢性肺アスペルギルス症は代表的な難治性呼吸器感染症の一つであり,5年生存率は50%前後と予後不良な疾患である.多くは肺空洞等にAspergillus属が腐生し,月単位の速度で緩徐に進行する.肺空洞内の菌球や空洞壁肥厚の確認,病変から菌体の検出,および抗アスペルギルス抗体を総合的に勘案して診断し,病態を評価する.病態は複雑で細かい分類名が複数使用されており,患者の病態をイメージし手術適応を議論する際に,これらの分類名が有用となる.治療は,病原体の排除,喀血への対応,および過剰な炎症反応への対応に大別される.病原体の排除には,手術療法等による物理的除去と,抗真菌薬による化学的除去の2つの方法がある.手術療法は呼吸機能が保たれ全身状態が良好な単純アスペルギローマの患者が最も良い適応となる.抗真菌薬治療は手術による完全除去が見込めない場合や手術不能な場合に適応となり,慢性進行性肺アスペルギルス症が対象となる.我々が実施した抗真菌薬治療の臨床研究では,経口ボリコナゾールが経口イトラコナゾールよりも臨床的改善効果が高い可能性が示されている.アゾール耐性Aspergillus fumigatusの存在も明らかとなっており,特に慢性肺アスペルギル症患者の治療中に出現頻度が高いため,薬剤感受性試験の適切な実施が求められる.

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© 2023 一般社団法人 日本感染症学会
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