感染症学雑誌
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愛野町呼吸器病検診による医療施設受診以前の慢性呼吸器感染症における呼吸器病原菌の研究
松本 慶蔵宇塚 良夫力富 直人田口 幹雄隆杉 正和原田 知行高橋 淳大石 和徳鈴木 寛野口 行雄宍戸 春美山本 真志土橋 賢治吉田 俊昭渡辺 貴和雄
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1984 年 58 巻 7 号 p. 603-612

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抄録

慢性呼吸器感染症の気道病変の進展と起炎菌のエコロジーに関する研究の一環として, 病初期および医療施設受診以前の無自覚期の解析を目的に, 40歳以上の住民を対象とする長崎県愛野町呼吸器病検診を実施した. 対象住民約1,300人中, 徒歩受診可能な, 男261, 女424, 計685名 (約53%) の検診を行い, このうち, 男103名 (39.5%), 女97名 (22.9%) から喀痰が採取できた. 喀痰定量培養で検出された呼吸器病原有意菌種は延113株で, インフルエンザ菌34, 肺炎球菌28, 黄色ブ菌22の3菌種で74%を占めた. 有意菌種が107/ml以上検出された48名中, 単一菌種は38 (79%) で, インフルエンザ菌15, 肺炎球菌11, 黄色ブ菌と化膿連鎖球菌各3が主体であり, 複数菌検出10名 (21%) では, インフルエンザ菌と肺炎球菌の同時検出が7であった. 長崎大学熱研内科における患者からの分離菌種と比較すると, インフルエンザ菌以外のグラム陰性桿菌が2検体と非常に少ないこと以外は, 酷似した成績であった. 107/m1以上の有意菌検出者48名中, 40名は臨床的に慢性呼吸器感染症の存在は見出し得ず, 8名が初期・軽症の慢性気管支炎と診断された. 以上から, 慢性下気道感染症の早期においてはインフルエンザ菌と肺炎球菌が関与し, その他のグラム陰性桿菌は気道病変が進行した後に出現してくるという, 起炎菌の方向性に関する私共の推論を裏付ける成績であった.

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