感染症学雑誌
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抗生剤投与中の腸内細菌叢及び血液凝固系の変動に関する検討
岩田 敏
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1984 年 58 巻 9 号 p. 903-920

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抄録

抗生剤投与中の出血傾向は重要な副作用の一つであるが, 特に最近では, 新しいCephem系薬剤の使用に伴い問題視されている. そこで, 抗生剤投与中の小児について, ビタミンK欠乏の際特異的に出現する異常プロトロンビンであるProtein induced by vitamin K absence or antagonist (PIVKA II) を主な指標として血液凝固系の変動を調べ, 腸内細菌叢, 経口的食餌摂取, 下痢との関係, 及び抗生剤別, 年齢別, 疾患別の差異について検討した. その結果160例中37例 (23%) がPIVKAII陽性を呈した. このうち2/3以上の症例は. 抗生剤の投与開始後7日以内に陽性化した. 出血傾向は160例中11例 (7%) に認められ, 全例でPIVKAIIは陽性を呈した. 腸内細菌叢の変動は124例について検討したが, 腸内細菌叢が抑制された83例のうち, 23例 (28%) がPIVKAII陽性を呈し, さらに経口的食餌摂取量の減少が重なった23例については15例 (65%) が陽性を示して, 腸内細菌叢の抑制と経口的食餌摂取の不足により, 高率にビタミンK欠乏を生ずる可能性が示唆された. 年齢別の検討では, 乳児例においてPIVKAII陽性例が少なかった. 疾患別のPIVKAII陽性率は, 敗血症, 胎内感染, 中枢神経感染症例で高く, 尿路感染症例で低い傾向が認められた. 抗生剤別の検討では, LMOX, CMZ, CPZ等の3位に1-methyl-1-H-tetzazole-5-y1-thiomethyl基を有するCephem系薬剤にPIVKAII陽性例が多く認められ, この基とビタミンK依存性凝固因子の関係について, 今後検討の必要があると考えられる.
以上より, 腸内細菌叢に大きな影響を及ぼす広域抗生剤, 特に新しいCephem系薬剤のような抗生剤を投与する際には, PIVKAIIも含めた血液凝固系の注意深い観察が必要であり, 新生児や経口的食餌摂取の不足している症例など, 症例によってはビタミンKの予防投与が必要である.

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