1997 年 71 巻 3 号 p. 241-247
Chlamydia trachomatisによる女性性器感染症の中で頸管炎とともに最も重要なものに骨盤内感染症 (以下PID) があり, その診断にあたってはC.trachomatisの検出が卵管という部位的に困難な場所であることから血清抗C.trachomatis IgGおよびIgA抗体が補助診断法として測定される.新しく開発された簡便で迅速な抗体検査試薬であるラピザイムクラミジア ® の有用性をELISA法であるセロイパライザクラミジア ® と比較検討した.その結果, 簡便法はPIDの診断症例で陽性一致率, 陰性一致率, 全体一致率はIgG, IgAでそれぞれ100%と100%, 90.9%と84.4%, 88.0%と85.9%であり, またC.trachomatis検出陽性PIDでは陽性, 陰性一致率はともに100%, 全体一致率はそれぞれ93.8%と100%と良好であった.一・方PID経過観察症例においてELISA法で観察された, 予後とも関係の深いcut off index (COI) の低下や横這いなどといった抗体の変化パターンは簡便法では認められなかった.以上のことから今回検討した約10分で判定可能な簡便法はPID診断と治療開始時におけるC.trachomatisの関与を考慮した薬剤選択や投与期間など治療法の設定と管理の組立に有用な抗体検査試薬と考えられた.またPIDの経時的な経過観察での予後判定などにおいては簡便法よりELISA法のほうが適していると考えられた.