2001 年 75 巻 11 号 p. 940-945
1999年10月から12月にかけて著者らの病棟で11例の悪性腫瘍患者が感染症を合併し培養でMRSAが分離された. 肺炎6例, 腸炎3例, 敗血症と創感染が各1例である. 8例はMRSA感染症, 3例は混合感染でMRSAはcolonizationと考えられた. 感染症発症前1カ月間に10例で抗菌薬が使用されていた. 感染症の転帰は5例は改善・生存したが6例は死亡した. 感染症発症時の好中球数は生存例は全て1500/μl以上で, 死亡例6例中5例は1, 000/μl以下, 特に直前に癌化学療法を受けた3例は100/μl以下であった. 好中球減少はMRSA感染症の予後不良因子である. 抗菌薬の使用と癌化学療法がMRSAを選択的に増殖させ感染症を招いたと考えられる. 9例でMRSAのDNAパターンをPFGE法で検索した結果, 7例が同一で他の2例も別の同一パターンを示し, 院内感染が証明された.
MRSAの拡散を防ぐためには感染症患者のみを対象とする現在の対策では不十分であり, 発症前のcolonization段階の患者も対象にしなければならない. そのためには病室の個室化や看護スタッフの大幅増員等の病院システムの抜本的改革も必要と思われる.