感染症学雑誌
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車師前国 (古中国) 人の結核の集団発生
布施川 久恵王 炳華桜井 清彦長沢 和俊岡安 三喜永倉 貢一
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2003 年 77 巻 3 号 p. 146-149

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抄録

車師前国は中国西域の歴史の中で最も古い国家である. この王朝は紀元後450年に沮渠 (そきょ) 安周に滅ぼされるまで650年間つづき, とくに紀元前20年から後漢時代 (紀元後220年) までの240年間は, 古シルクロード (天山南路) に沿う東西交通の要衝, 交河故城を中心に繁栄していた. 1996年, この車師前国人の墳墓が交河故城の西のヤールホト古墳群でみつかり, 黄金製の冠, 指輪, トルコ石をちりばめたブローチやバックル, さらに殉葬馬の骨が出土したことから, これらの墳墓群は王墓とその一族のものと判明した. 墳墓内にはミイラではなく人骨があり, その15人骨 (主に肋骨, 脊椎骨と大腿骨) から骨髄を採取し, うち3人骨からPCRによって結核菌DNAを検出した. 3人のうち2人は子供で, 他の成人2人を加えると埋葬された人の1/3が感染する結核の集団発生があったと推定される. 検出された124bpの塩基配列は2箇所でA-T置換がみられた. 本研究は結核による骨病変のない人骨であっても, 骨髄をもちいれば, 日常検査に使うPCRによって古代人の結核の実態をあきらかにすることができることをしめしている.

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© 日本感染症学会
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