2017 年 58 巻 9 号 p. 510-518
81歳女性.2015年9月にC型肝硬変症を背景に肝細胞癌初発.多発再発に対して治療中,2016年8月,胆囊に接したS5表面に,胆囊動脈の分枝から栄養される径20 mmの再発を認めた.TACE(transcatheter arterial chemoembolization)を試みたが,胆囊動脈から分岐する栄養血管を選択できず,Lip-TAI(lipiodol-transcatheter arterial infusion chemotherapy)施行,1カ月後,同部位の肝細胞癌破裂にて救急受診となった.TAE(transcatheter arterial embolization)は施行困難で切除も希望されなかったため,エタノール注入による止血を試みた.第1,2病日に,経皮的エタノール注入施行,第3病日のdynamic CTでは,腫瘍右側の早期濃染は残存しており,同部位はエタノール貯留が困難と考えた.そのため,ドップラーエコー下に栄養血管を21 G PEITニードルで穿刺,血液逆流を確認後,エタノールを血管内注入した.注入後,血液逆流の消失,ドップラーエコーで血流消失を確認,dynamic CTにて腫瘍濃染の消失を確認した.本症例は,肝細胞癌破裂に対して血管内へのエタノール注入にて止血した初の報告である.