症例は84歳の男性.C型肝硬変で当科へ通院中.肝細胞癌(hepatocellular carcinoma;HCC)に対して,局所治療や血管内治療を繰り返していた.肝内に多発再発を認めたが,腎機能障害のため血管内治療は継続困難となった.テガフール・ウラシル配合剤投与を行うも腫瘍マーカーは上昇傾向であり,投与を中止した.その後HCCは経時的に増加・増大し,多発肺転移も認めた.免疫賦活作用を期待して十全大補湯を開始したところ,開始1カ月後に腫瘍マーカーは著明に低下し,開始6カ月後には一部の肝内病変は縮小し多発肺転移は消失した.
十全大補湯による抗腫瘍効果と考えられ,推奨された治療に対して抵抗性,または肝機能不良の進行HCC症例に対して,1つの選択肢となり得る可能性が示唆された.