抄録
Jackson型てんかんを初発症状とし,てんかんの原因が頭頂骨転移巣による大脳皮質運動領の圧迫及びそれへの浸潤と考えられた肝細胞癌の1剖検例を報告する.症例は58歳,男性.Jackson型てんかんで発症し,頭頂部腫瘤の存在及び頚動脈造影の所見等より悪性腫瘍の頭蓋骨転移が疑われ,腹腔鏡,頭頂部及び胸壁腫瘤の生検から肝細胞癌の転移と診断されたが,進行性の頭蓋内合併症で死亡した.剖検で,肝硬変,肝の90%以上を占める肝細胞癌及び全身他臓器への転移が認められた.頭頂部転移巣は大脳皮質より帽状腱膜に及ぶ腫瘍塊からなり,転移巣に含まれる大脳,髄膜,頭蓋骨,帽状腱膜の膠原線維の量及び成熟度の検討から,早期転移巣は頭蓋骨骨髄と結論した.Jackson型てんかんを初発症状とし,その原因が頭蓋骨転移にあったとする報告は極めて稀で,われわれが文献的に調べた限りでは,当症例を含めて世界で2例をみるにすぎない.