抄録
転移性巨大大網腫瘤(重量2,400g)を形成した原発性肝細胞癌の73歳,男性の剖検例で,放射線学的ならびに手術所見のみならず,摘出腫瘤の病理組織所見からも大網原発腫瘍が強く疑われ,剖検によりはじめて上記診断の疾患であることが判明した.腫瘍は組織学的に,肉腫様増生を伴なうWHO組織分類Hepatocellular carcinoma (pleomorphic variant)であった.肝癌と肝硬変とが合併する頻度は高いが,本例は経過中肝機能障害は殆んど出現せず,組織学的にも肝硬変を全く認めなかった.つまり,本例は転移性の巨大大網腫瘤を形成した肝硬変非合併肝癌の極めて稀な例で,転移巣が原発巣よりも常に臨床症状および所見で優位な経過を示したという特徴をもつものであった.