1988 年 29 巻 9 号 p. 1269-1273
肝左葉内側区域に生じた肝細胞癌で,剖検にて肝円索を経由して臍上部に皮膚浸潤をきたしたことを証明し得た1例を報告する.症例は59歳男性で,腹部膨満感および腹壁(臍上部)腫瘤(直径約2cm)を主訴に来院.HBs抗原陽性,AFP 13,100ng/mlで,画像診断より肝左葉内側区域に径5cmの主腫瘍および周囲に娘結節を認め,門脈左枝への浸潤,肝門部リンパ節転移および腹壁への転移を伴う肝細胞癌と診断した.化学療法を施行するも抗腫瘍効果は認められず,症状発現後約3カ月目に肝不全で死亡した.剖検ではEdmondson III型の肝細胞癌で,肝・副腎・リンパ節転移および胆嚢・門脈・皮膚への直接浸潤が認められた.特に皮膚浸潤については肝円索を経由していることが明らかとなった.本例のように肝円索経由の皮膚浸潤を組織学的に証明し得た例はこれまでになく,肝癌の増殖進展様式を考える上で示唆に富む症例と考えられた.