じん肺症について,吸入された粉じんが肺以外の臓器に与える影響についてはほとんど知られていない.われわれは病理学的にじん肺症と診断された病理剖検例5例について全身の諸臓器を組織学的に検討した.
全例の肝臓および脾臓において,組織学的に粉じんと考えられる黒色色素の沈着を認めた.
皮膚や消化管ではそれら黒色色素は認められなかった.肝臓における主たる沈着部位は肝小葉間結合織内リンパ管,肝静脈壁リンパ管および肝被膜リンパ管に相当する脈管様構造とその周囲であり,肝小葉内では類洞壁の網内系細胞にも微量の黒色色素を認めた.電子顕微鏡学的検索では沈着黒色色素の超微形態とその元素組成の間に,基本的に3つのパターンを認めた.免疫組織化学的には,黒色色素を含有した網内系細胞はlysozymeなどが陽性を示したが,黒色色素非含有網内系細胞に比しその染色性は弱く,黒色色素含有によるそれら酵素活性の低下が示唆され,じん肺の免疫能に与える影響が推定された.