抄録
棲息環境の含水量がミカンネコナカイガラムシの密度に大きく影響するので, 著者等は1963年の4月~6月の長雨および1964年7月~9月の旱魃の前後におけるこの虫の密度を調査して, 長雨期や旱魃時におけるミカン園の耕起とこの虫の防除との関係について考察を加えた.
(1) 長雨前の1963年3月7日における調査では,1樹当り 332.8 頭であったが, 4・5・6 月の長雨後の6月29日における調査では4.8頭に激減した. この虫は長雨前には 21cm の深さの土壌層まで棲息したが, 長雨後には 8cm の深さの土壌層までにしか棲息しなかった.
(2) 緩傾斜地の耕耘区では, 1樹当りの平均密度は4.8頭であり, 急傾斜地の無耕耘区では56.8頭であった.
長雨により急傾斜地の無耕耘区においてもこの虫の密度は減少したが, 耕耘区ではこの虫の密度は特に激減した.
(3) 1961年および1962年の様に急激に多量の雨が降ることは, この虫の密度にあまり影響しないが, 1963年の様に少量の雨でも毎日降る雨は, この虫の密度を激減させた. これは, 土壌の含水量を高めるように降る雨が, この虫の棲息密度に影響するわけであり, ミカン園を耕耘することは降雨水を土壌中に吸収させる意味において, この虫の防除に意義あるものと思われる.
(4) 1964年7月~9月の降雨量は極めて少なく, 旱魃の年であった. 傾斜地のミカン園ではミカンの根群は枯死して, ネカイガラの密度も極めて僅少であった.しかし,平坦地のミカン園では葉悄も繁茂していて, 土壌の含水量も比較的多く,虫の密度も傾斜地に比較して高かった.
5 旱魃により傾斜地のミカン園では, 地表部に近いミカンの根群は枯死して,園地を中耕したのと同じ様な結果がみられた. 園地を耕起して, ミカンの樹勢を保持する細恨群を土壌層の深層に維持させることは, この虫の防除にとって緊要である.