【目的】高齢者の生活拠点として施設か在宅かが問われている中で,一般民家を利用して5〜10人程度の高齢者を受け入れ,介護の必要度に応じて個別的な対応を行う小規模・多機能施設として「宅老所」が注目されている。本研究は,施設と在宅を結ぶ居場所づくりとして,その中間的な役割が期待されている「宅老所」を取り上げ,介護士および高齢者間の関係づくり分析を通し,高齢者にとっての居場所の快適性実現に向けて,その独自の機能の洗い出しを試みようとするものである。【方法】調査対象施設として岩手県紫波町の宅老所「えんどり」を取り上げ,2箇所の施設利用高齢者12名を対象とし,介護士・施設利用高齢者間のコミュニケーションおよび生活行動分析を行った。調査期日は2005年10月〜12月である。【結果・考察】小規模・多機能施設に関しては,小規模であるがゆえに家族的な信頼関係が成立しやすいことが大きな特徴となっている。本研究における分析を通し,その信頼関係成立の背景にあって高齢者の居場所形成にかかわる要因として,(1)介護士が経験に基づいて豊かな受容的資質を備えていること,(2)施設空間が居住地域内の一般民家であることから安心感と親密感を伴うこと,(3)高齢者同士の生活支援行動が生じやすい人数・空間規模であること,(4)ある高齢者と介護士との信頼関係の成立が相乗的に他の高齢者の信頼感の醸成に影響を及ぼすこと,(5)常に施設内の人々の見守りの中で拘束性の少ない随意行為が行われていることなどを指摘できた。小規模・多機能施設が特養の個室化とユニット・ケアにかかわる問題点をクリアーできる機能を有し,その機能が高齢者の居場所形成に果たす役割が大きいと考えられる。