【目的】我々は、水産物が持つ抗酸化能をラジカル捕捉活性能の観点から研究を行ってきた。今回は、活性酸素損傷の中でもDNA上の脱プリン/ピリミジン損傷に注目し、その損傷を定量できる脱塩基DNA法を用いて、鮮魚肉から水産加工品への加工過程における抗酸化能の変化を、イカを中心にしてDNA損傷に対する防御能の観点から研究を行った結果を報告する。
【方法】試料は、市販のケンサキイカ、コウイカ、ヤリイカなどの鮮度の良い生肉を用いた。また、水産加工品としては、原料がスルメイカである市販の魚醤油(いしる)、手作りのスルメイカの煮こごりを用いた。生肉の場合、水抽出液0.4g/mlを原液として使用した。また、ポジティブ・コントロールとして、抗酸化能が高いルチン(ビタミンP)100ppm(164µM)の10%エタノール溶液を使用した。活性酸素はヒドロキシラジカルを用い、その発生はフェントン反応より行った。脱塩基DNA法は既に報告した手順で行った1)。
【結果】どのイカの生肉においても、ヒドロキシラジカルによるDNA損傷に対しての防御能は認められなかった。一方、イカが加工の過程を経ると、スルメイカの煮こごりでは17.67%、イカの魚醤油(いしる)では34.06%のDNA防御率を示し、加工が進むにつれて防御率が増大した。その時のポジコンのルチンのDNA防御率は35.46%であった。少なくとも、イカの場合、加工を経て発酵製品まで行くと、抗酸化能が増大することが、ラジカル捕捉活性能とDNA防御能の両観点から示唆された。
1) 原田和樹・廣津大輔・前田俊道・粟津原理恵・長尾慶子・福田裕・芝恒男: 平成19年度日本水産学会春季大会講演要旨集, 印刷中. 2007.