目的 住宅金融における市場化や規制緩和,ライフコースの多様化や雇用の不安定化といった社会経済状況のもと,家計における住居費負担や住宅ローンの利用がどのように変化しているのかを明らかにすることを目的とする.
方法 家計における住居費負担について,総務省が実施する全国消費実態調査や家計調査等の公刊統計を用いて,その動向を明らかにする.また,著者らが福岡県と大分県を対象に実施した住宅ローン利用世帯へのヒアリング調査をもとに,住宅ローン利用の実態とそのリスクについて検討する.
結果 近年,住宅ローンを利用した住宅取得が拡大している.また1990年代以降,可処分所得に占める住居費の割合は徐々に増加しており,家計における住居費負担が高まっている.住宅ローン利用世帯の事例分析からは,多くの世帯が,低金利であることを理由に変動金利型の住宅ローンを選択していること,頭金なしの住宅取得を経験していること,住宅取得後に所得の低下を経験していることなどが明らかになった.また,完済年齢が高齢期におよぶが,繰り上げ返済が計画的に実施されていない事例が多いことも明らかになった.住宅ローン利用のリスクは拡大している。