2016 年 14 巻 2 号 p. 75-83
目的と方法:布メジャーで距離を計測する方法(布メジャー法)と比べて器具を使用する方法(器具法)が、ご遺体を用いた三角筋筋肉内注射部位の想定に有効であることを我々は報告した。しかしながら、生体における両方法の比較は未実施であり、さらに両方法を熟知している者と未経験者間の判断部位に違いがあるかどうかは不明である。そこで今回は両方法を熟知している研究者1名と両方法未経験の看護学生24名に、被験者1名での両方法の三角筋筋肉内注射部位決定を依頼し、両者間の結果を比較した。結果:看護学生の位置は、布メジャー法で肩峰外側端のa点は0.2±1.0cm、前後腋窩線b点は1.9±1.2cm、腋窩神経が位置する下1/3ab点は1.4±0.8cm、器具法ではa点は0.7±1.0cm、b点は0.3±0.8cm、下1/3ab点は0.9±0.7cmそれぞれ研究者の位置よりも中枢側に位置していた。下1/3ab点とb点で有意に器具法の方が布メジャー法よりも研究者の測定値と看護学生の測定値の距離の差が小さかった(順にp<0.05、p<0.01)。看護学生が測定に要した時間は、布メジャー法で117.4±31.9秒、器具法で115.6±29.5秒であり、有意な差を認めなかった。考察・結論:三角筋筋肉内注射部位を決定する上で重要な部位決定に関して、肩峰外側端は両方法とも看護学生の位置が研究者の位置と比べて1.0cm未満の差となり比較的近かった。一方前後腋窩線は、器具法の方が布メジャー法よりも研究者の測定値と看護学生の測定値の距離の差が有意に小さかった。これは未経験者でも器具を用いた方が熟練者と同じような測定ができる可能性を示唆している。つまり、器具を用いた方が測定に慣れていない看護学生でも熟練した研究者と同じような三角筋筋肉内注射部位決定ができる可能性が考えられる。