抄録
各種哺乳動物の中枢神経系において、核小体様封入体 (封入体) の存在が電顕により報告されているが、その脳内分布の系統的研究は行われていない。ddYマウス青斑核では、パラフィン切片をHolmes変法で染色する事により光顕レベルで封入体の存在を明らかにすることが出来る。
本研究では、11種の近交系マウスにおいても、ddYマウスと同様に核小体様封入体が観察されるか否かを検索し、両マウス脳の連続切片標本内でその分布を調べた。
ddY雄マウス (20匹) と近交系マウス (21匹) のすべてをエーテル麻酔下で、左心室より2%パラホルムアルデハイドと2.5%グルタールアルデハイドの混合溶液で灌流固定し、脳をパラフィンに包埋した。マウス全脳の前頭断連続切片を作製し、Holmes変法により染色し詳細に光顕で観察した。
ddYマウス雄青斑核の神経細胞質内に封入体 (1-3μm) を見出し、その封入体の数を数えたところ核内で、その数に左右差は無く、一側で1, 552±136個 (n=20) であった。比較する上で更に、近交系マウス11種の青斑核に観察された封入体の数を数えたところ、ddYマウスの場合とほぼ同様に、ほとんどの青斑核細胞に1~2個の封入体が両側性に細胞体毎に認められた。ddYマウスの全脳における封入体の脳内分布を見ると、扁桃体・中隔核・側坐核・視索前野、視床下部・孤束核・脊髄の中間質外側部、青斑核 (A6) ・縫; 線核群 (B1~9) 、および終板血管器・脳弓下器官・最後野などの諸領域に観察された。
以上の事から、核小体様封入体は主として大脳辺縁系、自律神経系、モノアミン系と脳室周囲器官内ニューロンに出現する構造物として推測された。