抄録
本論文は、オブジェクト・ベースト・ラーニングについて、神経科学の視点から試論的な考察を行うものである。具体的には、学習について陳述的な知識の獲得(宣言的記憶)と、運動学習とに二分した上で、後者に焦点を当てるものである。 運動学習については、身体の体験する外部環境の在り方により誘導される学習の種類が変化し、運動学習の保持効果が変化し得ることが分かっている。筆者の行った研究からは、到達運動中に急激に増加する力場と漸増する力場という異なる運動学習環境を設計した場合に、学習者がおこなっている反復的な到達運動そのものは同じであるにも関わらず、後者において有意に学習内容の保持時間の延長が見られた。このように、神経科学研究では身体にかかる摂動が動的に変容する外部環境(ダイナミカルシステム)が学習に与える影響について検討が進められている。こうした知見は、動的に変化する外部環境をオブジェクトのひとつとして射程に含め、その性質が学習に与える影響に着目する重要性を示唆する。