抄録
本研究は、英国における最初期のアクアチント作品であるポール・サンドビー『ウェールズ十二景』(1777年)を取り上げ、郡山市立美術館所蔵の作例を対象に、18世紀後半の製紙状況との関係から画家の用紙選択の実際を検討することを目的とするものである。18世紀後半の英国では版画が広く普及しており、その支持体である「紙」は、産業革命の進展とともに改良が重ねられていた。当時、紙の表面特性や強度、インクの定着具合といった物理的側面が芸術制作においても重要な関心事項となっていたが、個々の作品に使用された紙に関する詳細な事例研究は未だ十分とはいえない。そのため本稿では、上記作例の調査結果を精査することで、18世紀後半の英国における版画制作およびサンドビー作品研究に資する事例を提示することを目指す。