日本健康教育学会誌
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特別報告
健康格差対策の進め方:社会疫学の知見を踏まえて
近藤 尚己
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2018 年 26 巻 4 号 p. 398-403

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抄録

健康格差とは,居住地・国・人種・ジェンダー・所得・学歴・職業・雇用形態など個人の持つ社会的な属性により,健康状態に差が存在することである.2008年,世界保健機関は健康格差対策に対して重要な推奨事項を提示した.すなわち「生活環境を改善すること」「幅広い連携とガバナンス体制の構築」「健康格差のモニタリングと施策の健康影響評価」である.しかし,この指針で十分触れられていないのが,これらの活動の達成のためにいかにして個人や組織の行動を変化させるか,という点である.健康づくりへの関心を保てない人でも無理なく健康的な選択をしてもらうにはどうしたらよいか.近年,人の認知と行動のクセ:認知バイアスへの理解を基にした行動科学的戦略の有効性が示唆されており,公衆衛生にも応用すべきである.多様な社会背景を持つ人々を類別化(セグメンテーション)し,それぞれの興味関心を理解してアプローチするマーケティングの工夫も必要である.医療現場で「せっかく治した患者を病気にしたもとの環境に戻さない」ための取り組みも芽生え始めている.「社会的処方social prescribing」は,外来や入院の場で患者の社会的リスクを“診断”し,地域の行政機関や民間活動との信頼ある連携により,それを“治療”するという考え方である.以上のように,健康格差対策には,頑張ることが難しい人に寄り添い,行動をそっと後押しするための,幅広い連携によるまちづくりが求められる.

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