2021 年 30 巻 2 号 p. 223-230
介護保険事業者が事故発生時に自治体に報告する事故の範囲,種類,報告基準の現状を全国規模で明らかにするため,ホームページ上で公表されている都道府県・政令指定都市・中核市の「介護保険事業者における事故発生時の報告取扱要領(以下,要領)」を収集し,要領の事故の範囲に記載されている内容を抽出し,事故の「範囲」,「種類」,「報告基準」に分類した。104自治体の要領データを収集した結果,事故の範囲では,「サービス提供中」の事故がどこまでを含むのか明記していた自治体の約半数が「送迎・通院・利用者が事業所内にいる間」としていた。事故の種類では,「死亡事故」,「怪我・負傷」は,ほぼ全ての自治体が,「不法行為・不祥事」,「感染症」,「食中毒」は,6割以上の自治体が報告の対象とし,都道府県,政令指定都市,中核市による大きな違いは見られなかった。しかし「誤嚥」,「誤飲」,「異食」,「誤薬」,「虐待・暴力」,「財産・家屋の破損」,「失踪・行方不明」,「火災の発生」,「自然災害の発生」,「交通事故」,「苦情・トラブル・訴訟」は,自治体によって報告対象とするかが異なっていた。以上より,介護保険事業者が自治体に報告する事故の範囲や種類,報告基準の現状が明らかになった。また,介護サービスに係る事故の発生状況を全国規模で把握する際に,本結果で示された事故の範囲や報告基準を考慮する必要性が示唆された。