我々は,健康な高齢者を対象としたプラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験において,サケ鼻軟骨由来プロテオグリカン複合体(SNC-PG)の摂取が筋肉量を増加させることを報告した。しかし,SNC-PGの摂取がどのように筋肉量および筋機能に影響を及ぼすのか明らかではない。本研究では,SNC-PGが筋機能に及ぼす影響について,マウスを用いて検討した。4週齢の雄性ddYマウスを2群に分け,AIN93G餌料(対照群)またはAIN93G餌料にSNC-PGを0.4%添加した餌料(SNC-PG群)を32日間摂取させた。SNC-PG群は,コントロール群と比較して,マウスの四肢握力およびヒラメ筋繊維の横断面積(CSA)を増加させた。加えて,四肢筋握力とCSAには中程度の相関が認められた。さらに,8週齢ddYマウスにSNC-PGを0.04%または0.4%添加した餌料を56日間摂取させた場合においても,両餌料の摂取によって四肢握力を有意に増加させた。一方,SNC-PGの摂取は,筋肉量および筋機能を高めることが報告されている盲腸内酪酸濃度を有意に増加させた。これらの結果から,SNC-PGは,筋機能の改善を通じてサルコペニアの予防に寄与する食品成分として利用できる可能性を示している。
接触による医療関連感染を予防するには,手指衛生に加えて環境表面の清潔の保持が重要である。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のガイドラインでは,高頻度接触面を頻回に清拭するよう推奨しているが,具体的な清拭部位は示していない。今回,喀痰吸引実施時の手順の遵守状況や手順から逸脱する状況を明らかにすることで,吸引実施時に汚染が予想される部位を推定し,吸引患者の効果的な環境整備につなげること,そして今後の手技指導に活かすことを目的に,北陸地方のある総合病院において自記式質問調査票を用いた調査を行った。
結果,手順の項目のうち,「薬指と小指を用いてカテーテルを袋から取り出す」の実施率が低く,手指消毒の実施率が「吸引後」に比べ「吸引前」が低かったことから,吸引時に手の清潔性を保ち,吸引患者への交差感染を予防する意識が十分ではないと考えられた。また,手袋の着脱のタイミングが手順に一致していない看護師が多く,吸引前に手袋が汚染されることによる吸引患者への交差感染や,吸引患者の痰や唾液による環境への汚染の可能性が考えられた。手順から逸脱する状況の発生頻度と,汚染した手袋でベッド周囲の各部位に接触する頻度から,「患者の顔や手」と「吸引器のスイッチ」,「吸引圧調整つまみ」,「吸引器のチューブ」,「ナースコール」,「ナースコールの復旧ボタン」が吸引時に接触汚染が予想される部位として推定された。このうち環境整備の対象となるのは「患者の顔や手」を除いた5部位と考えられた。
以上より,今後の吸引指導においては,適切なタイミングでの手袋の着脱指導に加え,吸引患者からの病原微生物の伝播と併せて吸引患者への交差感染にも注意が必要であること,そして,吸引患者では,「吸引器のスイッチ」,「吸引圧調整つまみ」,「吸引チューブ」,「ナースコール」,「ナースコールの復旧ボタン」の5部位を清拭することで効果的な環境整備につながる可能性が示唆された。
コロナ禍の実習を経験した看護学生の二次元レジリエンスの関連要因を明らかにする目的で,全国の看護系私立大学6校の4年生560名を対象に自記式質問紙調査を実施し,3年次の実習を含む経験を尋ねた。回収数279名(回収率49.8%)中で,使用した二次元レジリエンス要因尺度の回答に欠損や重複がある者,最終学歴が大学・准看護学校の者,年齢の回答がない者を除いた239名(有効回答率42.7%)を解析対象とした。二次元レジリエンス総合得点は,77.90点±9.93(Mean±SD),最大値101点,最小値51点であった。重回帰分析(自由度調整済み決定係数,0.346)の結果,二次元レジリエンスの関連要因は,「コミュニケーション演習は好きだ」,「自分の気持ちをグループメンバーと共有できた」,「自分を評価しそれを受け入れる力がある方だと思う」,「実習グループの仲間と仲が良かった」であり,これらの要因が大きいほど二次元レジリエンスが高い可能性があることが明らかになった。看護学生の二次元レジリエンスを高めるにあたっては,オンラインや学内実習においてもコミュニケーションが好きと思えるような,仲間との協同学習で達成感を得られる演習,自分の良いところと課題も評価し受け入れられる力を伸ばす実習指導などの具体的な方策が今後の課題である。
精神障害に対応した地域包括ケアシステムでは,重層的な連携による支援体制の構築がすすめられており,ピアサポーターや精神障害者の参画が推進されている。本研究の目的は,精神障害のピアサポート活動の研究がどのような視点でされているのかを明らかにすることである。研究対象文献は,医中誌Web版(ver.5),Google Scholarで検索語「精神障害」,「ピアサポート」,「原著論文」で検索し,抽出した文献の要旨およびAbstractから,研究題目,研究対象,研究場所の記述を抽出した。抽出した文献がどのような視点による文献であるかを整理するためにマトリックス分析を実施した。タテ軸を「当事者/支援者」,ヨコ軸を「施設/地域」とし,2×2の4象限に区分したマトリックスに文献を落とし込んでカテゴリ化し,概念を命名した。分析の結果,精神障害のピアサポートに関する研究の視点として,「当事者・ピアサポート活動従事者への影響」,「当事者の体験」,「入院患者のピアサポートの活用」,「支援体制としくみづくり」が明らかになった。また精神障害のピアサポートは,ピアサポート活動従事者への適切なサポートの不足,人的資源の不足,専門職間の連携の不足が課題であると考える。
低出生体重児の在宅移行支援における親と医療者のshared decision making(SDM)の特徴を明らかにすることを目的に,CINAHL,Cochrane,MEDLINE,医学中央雑誌,CiNiiを用いて,文献レビューを実施した。最終的に17件の文献を採用したところ,低出生体重児の在宅移行支援におけるSDMの特徴は,医療者が親の価値観を尊重したうえで,信頼関係を築くことであり,続いて親のニーズに沿った情報提供,育児やケアの指導,在宅移行の話し合いであったと示唆された。しかしながら低出生体重児の在宅移行がスムーズであった事例における,親と医療者間で行われた在宅移行に向けた話し合いの時期や方法については,そのプロセスや詳細が十分に報告されていなかったため,今後は実態を精察していく必要がある。
高齢者ケア施設におけるCOVID-19に対する感染マネジメントの実際と課題について明らかにすることを目的とし,COVID-19禍の施設運営経験のある高齢者ケア施設の管理者4名にインタビューを実施した。インタビューデータから,高齢者ケア施設における感染マネジメントの実際と課題に関する文脈として,164コード(マネジメントの実際114コード,マネジメントの課題50コード)を抽出した。コードを質的帰納的にサブカテゴリー,カテゴリー,コアカテゴリーに分類し,マネジメントの実際は,9カテゴリー【平時から基本的感染対策が実践できるよう,ケアスタッフに普及・教育した】,【有事に備えて物的資源の整備や研修・訓練をした】,【法人で作成したマニュアルを活用し,施設内の状況にあった感染対策を検討した】,【看護職がCOVID-19に感染した利用者の生活支援方法を検討できるよう調整した】,【感染者発生時や職員減少時に業務調整を行なった】,【施設内外の関係者と情報共有した】,【地域の医療機関による支援体制を構築した】,【法人本部によるCOVID-19における施設管理業務の支援を受けた】,【COVID-19禍において業務に従事するケアスタッフへの精神的支援を行った】から構成され,4コアカテゴリー«平時からの感染対策の検討・普及»,«有事の業務調整・情報共有»,«受援体制の構築»,«COVID-19対応への精神的ケア»に集約した。マネジメントの課題は,5カテゴリー【高齢者施設の特性(生活環境・職種・対象者)により十分に感染対策ができていないと感じた】,【有事の際の業務調整や人員確保が困難だった】,【施設内各職員への情報の整理・共有が困難だった】,【職員,管理者ともに終わりが見えないCOVID-19対応に不安を感じた】,【対外的な対応にスタッフの負担が増大した】から構成され,2コアカテゴリー«多様なマネジメント対応を求められる困難»,«精神的負担感の増大»に集約した。今後の高齢者ケア施設における感染マネジメントの向上につながる取り組みとして,看護職による感染対策の検討,施設管理者を支援する体制づくり,全職員へのメンタルヘルスケア支援が示唆された。