日本健康医学会雑誌
Online ISSN : 2423-9828
Print ISSN : 1343-0025
原著
薬局スタッフを対象にした肥満予防意識に及ぼす遺伝子検査の影響
松岡 浩史古賀 雄太郎岸本 大樹道原 明宏
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2022 年 31 巻 2 号 p. 205-213

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抄録

遺伝子検査は遺伝要因により生じる疾患の診断に利用されており,それら疾患は単一遺伝子疾患と多因子疾患に分類される。単一遺伝子疾患は遺伝要因の有無により生じる疾患であり,多因子疾患は遺伝要因だけでなく,食事や運動,飲酒,喫煙などの生活習慣も深く関与している。多因子疾患に含まれる生活習慣病の三大疾病である悪性新生物,心疾患,脳血管疾患の発症リスクは,肥満症状を有するメタボリックシンドロームにより高まることから肥満の予防が生活習慣病の対策となる。遺伝子検査の利用は疾病発症の遺伝的リスクを早期に発見し,予防に対する意識変容,行動変容につなげることが重要である。

本研究では,遺伝子検査の実施による肥満予防意識への影響を明らかにするために,薬局スタッフを対象に肥満関連遺伝子(ADRB3)の遺伝子検査を行った。遺伝子検査の結果により3つのグループ(野生型開示,野生型非開示,変異型開示)に分け,遺伝子検査結果の開示前後で疾病の予防意識に関するアンケートにより意識変容を比較した。また,各グループを意識レベル(低意識群,高意識群)で分類して評価した。さらに,意識変容を示す生活習慣関連項目についても評価した。

薬局スタッフ(98名)の遺伝子検査結果はADRB3の野生型64名(65.3%)および変異型34名(34.7%)であり,これまでに報告されている日本人の変異型の割合と類似していた。遺伝子検査結果の開示による影響を意識レベルで評価した結果,低意識群の「変異型開示」および「野生型非開示」のグループにおいて有意に予防意識が高まった。また,食事・運動などの各項目を評価した結果,低意識群の「変異型開示」において脂質項目で有意に予防意識が高まった。

以上の結果から,遺伝子検査は肥満予防に対する低意識群において,遺伝子に変異がある場合(変異型開示),あるいはその可能性がある場合(野生型非開示)の対象者に対して予防意識の向上に有効であることが示唆された。また,変異型開示によって肥満予防に対する食事項目(主に脂質)においても予防意識を高めることが示された。

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