抄録
【目的】当院では転倒転落事故(以下;事故)予防に取り組んでおり、転倒転落シートや転倒アセスメントスコア(以下;転倒スコア)を導入し、転倒転落防止装置を使わず、人的対策を実施してきた。しかし事故の総件数は減少していない。そこで事故の関連要因を分析し、対策を再検討することを目的とした。
【方法】回復期病棟83床で発生した事故123件を対象とし、平成18年8月から6カ月間調査した。平均年齢75.4±10.3歳、人数64名で、事故報告書からテ゛ータヘ゛ースを作成した。内容は、1.年齢、2.疾患名、3.転倒時Barthel Index(以下;BI)、4.入院時転倒スコア、5.認知症老人の日常生活自立度(以下;認知症ランク)、6.障害老人の日常生活自立度(以下;JABC)、7.発生状況、8.発生場所、9.関連用具、10.精神機能、11.身体機能、12.危ないと思ったことはあるか(以下;危険予測)の12項目とした。転倒経験者を1回のみの者(Single Fall=以下SF群)と複数回の者(Multiple Falls=以下MF群)の2群に分け、転倒の関連要因を分析した。統計解析はMann-WhitneyのU検定(SPSS12.0J)を行い有意水準p<0.05とした。
【結果】期間中報告された事故は、SF群39件(31.7%)MF群84件(68.3%)25名(39.0%)であった。1.年齢、2.疾患名、3.BI、6.JABC、8.発生場所、11身体機能(麻痺・筋力低下・ふらつき)に有意差はなかった。SF群は5.認知症ランクの正常レベル(SF群20名51.3%、MF群8名28.0%)、7.発生状況の移乗(SF群16件41.0%、MF群47件56.0%)、9.関連用具の車いす(SF群30件75.0%、MF群28件33.3%)で有意差を認めた。MF群は4.転倒スコアの危険度、7.発生状況の移動(SF群16件41.0%、MF群47件56.0%)、9.関連用具のヘ゛ット゛(SF群19件2.6%、MF群57件67.9%)、10.精神機能の理解判断力低下(SF群25件30.7%、MF群77件62.6%)、12.危険予測(SF群28件71.8%、MF群80件95.2%)で有意差を認めた。
【考察】我々は当初、身体機能低下が事故に影響を及ぼしていると考えていた。しかし理解判断力低下があり、転倒スコアが高値の者が事故を繰り返し易いことが分かった。また、SF群は目的動作で事故を起こし易く、MF群はヘ゛ット゛周囲で移乗前の事故が多いとも言える結果となった。MF群による事故は偶発的で高頻度なものが多く、対策として巡回強化に加え、離床センサー等の環境設備の検討が必要ではないかと考えられる。今回の分析結果を踏まえて、人的要因、環境要因の検討を行い、事故件数の減少に向けて当院に必要な対策を講じていく方針である。