抄録
【目的】高齢者を対象として、不安定板を用いた動的バランス能力を評価し、この動的バランス能力と下肢の運動機能との関連について検討した。
【方法】対象は施設に入所している高齢者17名(男性5名、女性12名、平均年齢83.3±5.75歳)とした。対象者には本研究の内容を説明し、同意を得た。
本研究ではディジョックボードプラス(酒井医療社製)を用いて、不安定板での動的バランス評価を行った。この装置ではコンピューターの画面上に水平位置の目標点が表示されるため、被験者が視覚的に状態を確認することができる。データはサンプリング周波数40Hzでコンピューターに取り込まれ、水平からの傾斜角度を二乗平均平方根した安定化指数が計算される。よって安定化指数が小さいほど水平からの角度変動が小さいことを示す。今回は、不安定板の傾斜を前後方向のみに制限し、固定型歩行器を軽く保持して30秒間立位保持した際の安定化指数を測定した。また、運動機能評価として以下の項目を測定した。1)重心動揺計測:重心動揺計を使用して静止立位時の重心動揺面積(以下、RMS)、および前後方向の最大随意重心移動距離を測定した。2)最大等尺性膝伸展筋力:最大等尺性膝伸展筋力をハンドヘルドダイナモメーターにて測定し、左右両側トルク平均値の体重比を算出した。3)下肢敏捷性:立位にて5秒間の最大足踏み回数を測定した。4)歩行能力:10mの最大歩行時間を計測した。統計学的分析は安定化指数・RMSと各検査項目とのpearsonの相関係数を求め、有意性の検定を行った。なお、有意水準危険率5%未満とした。
【結果】安定化指数と有意に相関を示した項目は、歩行能力(r=0.74)、随意重心移動距離(r=-0.61)、下肢敏捷性(r=-0.56)であった。一方で膝伸展筋力(r=-0.47) とRMS(r=0.31)には有意な相関は認めなかった。またRMSは下肢敏捷性(r=-0.61)にのみ有意な相関を認め、歩行能力(r=0.46)、随意重心移動距離(r=-0.44)、膝伸展筋力(r=-0.12)には有意な相関を認めなかった。
【考察】不安定板による動的バランス能力を評価した結果、安定化指数は静的なバランス能力を示すRMSとの相関はみられず、動的なバランス能力を示す随意重心移動距離とは有意な相関が認められた。また、安定化指数は膝伸展筋力とは相関がみられず、下肢の敏捷性とは有意な相関がみられ、不安定板上での立位姿勢制御には下肢筋力よりも敏捷能力の方が関連していると考えられた。さらに、歩行能力は安定化指数との有意な相関がみられ、RMSとは相関が見られなかったことから、静的バランス能力よりも不安定板で評価した動的バランス能力・姿勢制御機能は高齢者の歩行能力に影響を及ぼしていることが示唆された。