近畿理学療法学術大会
第47回近畿理学療法学術大会
セッションID: 80
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呼吸器疾患患者における歩行と足部感覚に着目した一症例
*春本 千保子千葉 一雄森 憲一梅木 速水
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抄録
【はじめに】この度,肺癌治療のため長期臥床を余儀なくされ廃用性筋萎縮を呈した肺気腫の症例を担当した.通常これらの障害に対し,筋力増強と呼吸器疾患に対する運動療法が実施される.しかし,本症例においては特異的な歩容と足部感覚障害を呈していたため,これらの動作分析と問題点の追求を行い,治療を展開した.足部感覚改善と歩行動作の治療的介入により動作能力の向上が得られたので報告する.
【症例紹介および評価】73歳,男性.診断名は肺癌,肺気腫(H-J:III,FEV1.0%:42.5%).障害名は廃用性筋萎縮.前院にて3ヶ月間の入院後,平成19年4月23日に当院入院.同年5月2日より理学療法開始となる.初期評価時,両足ともに下腿から足部にかけて筋の高緊張が見られ,足関節底屈筋力はMMTにて右2,左3.足底表在覚は右6/10,左7/10.足趾位置覚は右5/10,左6/10.生理的コスト指数(以下PCI)は0.3,距離は120m.移動レベルは監視下での歩行器歩行.宙に浮いたような自覚症状があり,下肢を過剰に挙上した鶏歩様の特異的な歩容を呈していた.
【治療】足部の筋緊張を減弱させるために足部のdirect stretch バイブラバスによる温熱療法やハドマーなど,足部の循環と足部のmobilityを改善させるプログラムを実施.その後,感覚入力を強調した爪先立ちや段差を使用した立ち上がり動作,足部の運動改善を目的としたタオルギャザーを行った.足部機能改善後,歩行動作の治療的介入による歩行動作の再学習を実施した.
【結果】6月23日の時点で,足関節底屈筋力は右2+→3,左3→4.足底表在覚は右6/10→8/10,左7/10→10/10.足趾位置覚は右5/10→8/10,左6/10→10/10であった. PCIは0.3→0.17,距離は120m→144mと向上し,杖歩行可能なレベルまで改善し院内活動量は向上した.
【考察】下腿から足部は,下腿コンパートメントが存在し狭い空間に筋・神経・血管が伴走する。これらにより,下腿や足部では骨折時の癒合遅延や足部の冷えなど循環障害を呈しやすい解剖学的特長がある.本症例は低栄養・低酸素血症が存在し,さらに不活動による足部の筋ポンプ作用の低下することにより重篤な循環障害が生じ組織のエネルギー危機が惹起されたと考えられる.筋感覚を含む感覚器は細胞であり,これらのエネルギー危機により感覚障害が出現したと推察される.今回,呼吸器疾患患者に対する動作改善にあたり,動作分析により動作を阻害している問題点を把握し,呼吸器のみに着目するのではなく足部感覚に着目した治療を展開し効果を得た.
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© 2007 社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
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