抄録
【目的】
視覚刺激を用いて、運動を実施する事は臨床場面でよく導入されている。フィードバック機構において感覚系の中でも視覚が大半を占め、また臨床に簡便に取り入れやすいためである。身体運動を伴わず、視覚による運動観察や運動イメージで運動機能が向上したとの報告がある。その運動観察の有無で自動運動を行った際に脳にどのような影響を与えているのか、脳血液中の酸化ヘモグロビン(以下OxyHb)とその反応場所を数値的に計測する事が可能な、近赤外線分光法(以下NIRS)を用い調査する機会を得たので若干の知見を加え報告する。
【対象】
対象は健常成人12名(男性9名、女性3名、平均年齢24.4±11.6歳、全て右利き)であった。
【方法】
1.開始肢位<BR>
端坐位で右肩関節中間位とし、肘関節90°屈曲位で前腕を机上に乗せ、前腕回外位、手指屈曲位を開始肢位とした。<BR>
2.課題<BR>
30秒間の安静後、開始肢位より1秒で手指伸展、次の1秒で手指屈曲をメトロノームの音に合わせて、15回づつ計30回施行した。この安静と屈伸運動を1クールとした。この課題を「閉眼」と「開眼で手指を注視させる」(以下「開眼」)の2条件で脳血液中のOxyHbの変化量をNIRSを用いて計測し、3クールの平均値をデータとして用いた。なお、室内温度は21度に設定した。<BR>
3.統計処理<BR>
運動観察の有無で、OxyHbの変化量を比較した。統計学的分析には対応のあるt検定を用いて、有意水準5%未満とした。
【結果】
運動野付近・知覚領野付近の2ヶ所においてOxyHb変化量が3クールの平均値で、「閉眼」群に比べ「開眼」群で有意な増加が認められた。(p<0.05)
【考察】
今回の研究結果では「開眼」群が「閉眼」群と比較して左側運動野付近、知覚領野付近にOxyHbの有意な増加が認られた。<BR>
OxyHbは脳血流量のもっとも良い指標であるといわれており、ここではOxyHbの増加を脳血流量の増加として考察する。<BR>
運動野付近の脳血流量の増加に関しては、運動前野の脳血流量が増加したと推測される。運動前野は運動観察や、動作をイメージしたときに活動したと報告されており運動観察を行う事で運動前野の脳血流量が増加したと考えられる。<BR>
知覚領野付近の脳血流量の増加に関しては頭頂葉連合野の脳血流量が増加したと推測される。運動観察を行うことにより頭頂葉連合野の脳血流量の増加を認めたとの報告があり、また頭頂葉連合野は空間知覚や身体意識に関わるといわれており、結果、頭頂葉連合野の脳血流量を有意に増加させたと推測される。<BR>
今回の研究において、自動運動時の運動観察は運動野付近と知覚領野付近のOxyHbの有意な増加を認め、運動機能を向上させる事を示唆した。運動観察は運動機能の向上を示唆し、誰もが簡便に臨床に用いる事が可能な手段であると考える。