近畿理学療法学術大会
第49回近畿理学療法学術大会
セッションID: 42
会議情報

回復期脳血管障害者における転倒には注意機能低下が関係する
*田中 貴士山田 実
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】 転倒は,高齢者における要介護度の進行や寝たきりなどの原因となり,ADLの著明な低下を招く危険性が高い.脳血管障害(CVA)者の多くが転倒を経験しており,骨折を経験している者も多い.転倒に関する幾つかの危険因子の中でも,CVA者が抱える身体機能低下や注意機能低下は,転倒の主たる危険因子である.このように転倒の危険因子が複数存在するにもかかわらず,転倒のリスクを検討する上では,運動機能に着目したものが目立ち,注意機能は重要視されていない傾向にある.しかし,回復期におけるCVA者の転倒リスク因子の検討は十分になされていないのが現状であり,これでは有用な転倒予防が行いにくい.そこで本研究では,回復期入院中のCVA者の身体機能と注意機能に着目し,転倒との関係性を検討した. 【対象と方法】 対象は,回復期病棟入院中のCVA初発患者41名(66.7±10.2歳)である.対象者には紙面および口頭にて十分な説明を行い,署名にて同意を得た. 発症1ヵ月から3ヵ月間の転倒を前向きに調査した. 注意機能検査にはAttentional Rating Scaleを用いた.下肢の運動検査には Stroke Impairment Assessment Set,下肢の深部感覚評価にはFugl-Meyer Assessmentの一部を用いた. 対象者を転倒の有無により,転倒群・非転倒群に分類し,麻痺側,年齢,注意障害,運動障害,感覚障害のそれぞれにおいて差の検定を行った.さらにロジスティック回帰分析によって,転倒に影響に及ぼす因子を検討した. 【結果】 転倒調査中に転倒したCVA者は43.9%であった. 転倒群と非転倒群とを比較した結果,麻痺側の違いや年齢には有意な差は認めなかった.しかし,運動障害や感覚障害(p<0.05),注意障害(p<0.01)のそれぞれにおいて,転倒群で有意な障害を認めた. ロジスティック回帰分析の結果,R2=0.368,p=0.004,有意な関連要因として抽出されたのは注意障害のみであった(β=1.105,p=0.014). 【考察】 CVA者の転倒には,注意機能が大きな影響を及ぼすことが示された.転倒しないためには,行動に先立って環境や身体能力に合った適切な動作を選択する必要があるが,注意障害を有するCVA者では,転倒が発生しうる環境や自己の身体機能に見合った行動を選択できないことで転倒に至ってしまう可能性がある.身体麻痺によるバランス能力などの低下よりも,外的・内的な注意機能の低下が転倒に大きく関わっていることは大変興味深い. 【結語】 回復期脳血管障害者における転倒には,運動や感覚機能以上に注意機能の低下が影響することが示唆された.

著者関連情報
© 2009 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
前の記事 次の記事
feedback
Top