近畿理学療法学術大会
第49回近畿理学療法学術大会
セッションID: 6
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頚髄損傷者の上肢の硬度識別能力とASIA motor scoreおよびsensory scoreの関係
*佐藤 剛介乾 康浩久保 徳昌千葉 郁代森岡 周
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キーワード: 頚髄損傷, 識別, ASIA
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抄録
【目的】頚髄損傷者(以下CSCI)は、損傷髄節以下の運動麻痺や感覚麻痺、自律神経障害など種々の症状を呈する。ケースによっては、環境や対象物と接する身体部位を知覚できないことが存在するにも関わらず、損傷レベルに応じたADL動作が獲得される。これらは環境や対象物を体性感覚や視覚を基に識別していることが考えられるが、CSCIの識別能力について研究したものは見当たらない。本研究ではCSCIの硬度識別能力と身体機能の指標としてASIA motor score(以下AMS)とsensory score(以下ASS)を使用し、それらとの関係について明らかにすることを目的とする。 【方法】CSCI 10名が実験に参加した(平均年齢33.1歳)。脊髄損傷機能評価にはASIA分類を使用した。損傷高位はC5が3名、C6が5名、C7が2名であった。Impairment scaleでは、Aが7名、Bが3名であった。対照群として健常成人18名(平均年齢26.2歳)が実験に参加した。なお、全ての実験参加者には研究趣旨を説明し同意を得た。課題は参加者の前方に3種類の硬度の異なるスポンジを提示し、素手で識別を行わせ硬さの回答を求めた。課題にはそれぞれ視覚の影響を検討するため、開眼、閉眼、スポンジとの接触部のみ提示する場合としない場合の4条件を設定した。1条件につき10設問とし合計40問を行った。加えて、課題提示から回答までの時間を測定した。統計学的解析は、CSCI群と対照群間の正解数、回答時間の比較にMann-Whitney U検定を行い、視覚4条件間の比較にはFriedman検定を使用した。また、CSCI群の上肢のAMSとASSを調べ正解数と回答時間の間のSpearman順位相関係数をそれぞれ求めた。いずれの検定も有意水準は5%未満とした。 【結果】正解数の中央値が対照群の素手条件で35問、CSCI群で28問であり、CSCI群で有意に低かった。回答時間の中央値は、対照群で1.90秒、CSCI群で3.37秒であり、CSCI群で有意に遅延していた。CSCI群での視覚4条件間の比較では、正解数、回答時間ともに有意差が認められなかった。CSCI群の正解数とAMSの間で正の相関が認められた。回答時間では、すべての視覚条件でAMSと負の相関が認められ、開眼条件と閉眼条件においてASSと負の相関が認められた。 【考察】CSCI群の正解数は、対照群と比較して有意に低く、回答時間についても有意に遅延していた。これらの識別能力と識別処理時間は、AMSとの相関が認められ上肢の運動機能が影響していることが示唆された。視覚4条件の比較では、正解数、回答時間ともに有意差が認められなかったが、開眼条件と閉眼条件の回答時間でASSとの間に負の相関が認められた。これは課題が識別課題であるため視覚の影響が少ないと考えられる一方で、開眼と閉眼を除いた条件において身体の一部を隠すことで識別に混乱が生じ、識別処理時間の遅延を引き起こしたことが考えられる。
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© 2009 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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