近畿理学療法学術大会
第50回近畿理学療法学術大会
セッションID: 83
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変形性膝関節症一症例に対するジクロフェナクナトリウムを用いたイオントフォレーシスの影響
*肥田 光正西村 精展吉良 貞伸(MD)吉良 貞昭(MD)庄本 康治
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抄録

【目的】
 変形性膝関節症(膝OA)の疼痛は,滑膜炎や軟骨下骨の摩耗との関連性が強く指摘されている。膝OAの疼痛に対する薬物療法には非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)が用いられることが多いが,経口服用時に消化管障害等の副作用を発症するリスクが高いため,既にゲルやローションなどの経皮吸収剤としてのNSAIDが処方されている。また,これらは膝の滑膜へ浸透し鎮痛効果があったと報告されている。
 一方イオントフォレーシス(IP)は,直流電流を用いて経皮吸収剤をイオン化させ,薬剤輸送量を電流によって局所領域へ促進する治療である。整形外科疾患へのIPは種々の報告が認められるが,ステロイド剤を用いた研究が多く,近年開発された経皮吸収性の優れたNSAIDを用いてIPを実施した報告はない。そこで我々は,疼痛を有する膝OA一症例にジクロフェナクナトリウム(DS)を用いてIPを実施し,その影響を検討したので報告する。
【方法】
 症例は67歳の女性(BMI39.73)で,約10年前に左膝OA(腰野らの膝OAグレード2)の診断を受け,週3回程度整形外科に通院し運動療法,物理療法や経皮吸収剤(ノバルティスファーマ社製,ボルタレンACゲル1%)の処方を受けていた。ADLは自立していたが,歩行開始時,立ち上がり時や階段昇降時の膝痛が主訴であった。使用機器はIntelect MOBILESTIM,電極はOptimA Disposable Electrodes (Chattanooga社製)を用いた。使用薬剤は,IPで経皮吸収性が促進されることが報告されているDSを主成分としているボルタレンACローション1%(ノバルティスファーマ社製)を選択した。DSの総投与量は60-80mAmin,電流密度は2.5-3.5mAに設定した。肢位は軽度膝関節を屈曲させた背臥位とした。治療部位をアルコール綿で清拭後,輸送電極である陰極に本剤を塗付し膝関節内側に配置し,分散電極である陽極は外側に配置した。治療時間は25分で,治療期間は週3回で2週間,合計6回実施した。IPの鎮痛効果,炎症抑制効果を検討するため,本症例が主訴に挙げた各動作中の膝関節の疼痛をVisual Analog Scale(VAS)で評価し,また圧痛計(京都疼痛研究所製,FPメーター)で内側裂隙の圧痛閾値を測定した。筋力はハンドヘルドダイナモメータ(アニマ社製,μ-tus F-1)を用い,等尺性膝伸展筋力を測定した。炎症症状の変化は,サーモグラフ (NEC社製,インフラアイ2500)を用い膝関節の関心領域内平均温度を測定し評価した。さらに本症例の整形外科への通院回数を,IP治療前後の2週間毎に比較した。治療中は副作用の有無も確認した。治療期間中は経皮吸収剤の使用,運動療法や物理療法は継続し,ADLを制限しなかった。
【説明と同意】
 本研究の説明は医師と理学療法士が行った。IPの方法や予測される効果,副作用などを記載した文書を作成しインフォームドコンセントを行った。本研究に自由意志で参加することを確認後に治療を開始した。
【結果】
 動作時痛は軽減(歩行開始;治療前46mm,後12mm.立ち上がり動作;治療前30mm,後10mm.階段昇降;治療前64mm,後13mm),圧痛閾値は上昇(治療前1.5kgf,後2.5kgf),筋力は軽度改善(治療前29.4kgf,治療後35.1kgf)した。また,サーモグラフで測定した膝関節内側平均温度は低下(治療前32.7度,後30.7度)した。通院回数は,治療前2週間は合計6回,治療後から2週は0回,2週から4週は2回,4週から6週は7回で,治療後から4週までの通院回数の減少が認められた。治療期間中,副作用は認められなかった。
【考察】
本症例がIP前より同成分の薬剤を処方されていたことを考慮すると,IPが効果的に作用した可能性が考えられる。
【理学療法研究としての意義】
 IPは物理療法と薬物療法を組み合わせた治療方法で,医師との協力の下,今後ますます発展する分野であろう。本研究の結果は,今後臨床データを蓄積する上での予備的研究として重要であると考える。

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© 2010 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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