近畿理学療法学術大会
第50回近畿理学療法学術大会
セッションID: 87
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夜間痛がある肩関節周囲炎患者の握力との関連性
*中西 雄稔高木 律幸木村 健太郎塚本 晃基村上 元庸(MD)
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キーワード: 肩関節周囲炎, 夜間痛, 握力
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抄録

【はじめに】
肩関節周囲炎患者において夜間痛の存在は,患者のQOLを多大に低下させるため理学療法を行う上で,重要な治療対象である.しかし,痛みが強い時期の理学療法において炎症症状がでているであろう肩関節に対する関節運動は炎症を助長し,痛みを増悪させる恐れがあると思われる.この安静時痛が強い時期は評価や治療を効果的に行う方法として,今回,上肢遠位筋に着目した.
夜間痛を含めた痛みは筋出力の低下をきたし,腱板筋群の機能低下を招くという報告は散見されるが,遠位の筋力低下が生じてくるといった報告はみられない.そこで,肩関節周囲炎患者の遠位の筋力の指標として握力の強さからその関連性を考察した結果を報告する.
【対象】
対象は,当院にて肩関節周囲炎(肩腱板断裂を除外)と診断された患者33名33肩を対象とした(男性14名,女性19名,平均年齢64.9±9.8歳).データの収集は平成22年4月から現在までの期間でおこなった.
【方法】
理学療法初回時に夜間痛の有無を確認し,両側の握力を測定して夜間痛がある群(以下,P群)と夜間痛がない群(以下,N群)に分けたうえで左右の握力にどの程度差が出るかを検証した.比較方法は健側の握力に対する患側の握力の割合を出すこととした.統計処理はt検定を用い,有意水準は5%未満とした.
【説明と同意】対象には,本研究において十分な説明を行い,同意を得た.
【結果】
P群13名(右肩関節周囲炎5名,左肩関節周囲炎8名),N群20名(右肩関節周囲炎7名,左肩関節周囲炎13名)となり,P群の患側の握力は,健側の73.3±31.6%に低下していた.
また,N群の患側の握力は健側の103.5±30.9%という結果で,N群に比べP群の握力は有意に低下していた(p<0.05).性差では女性においては同様にP群の握力は有意に低下していた(P群女性71.3±22.6%,N群女性102.8±32.0%)(p<0.05)が,男性において有意差はなかった(P群男性76.5±45.7%,N群男性104.3±31.5%)(p>0.05).
【考察】
今回の結果では,P群において握力低下が有意にみられその中でも女性に有意差を認めた.夜間痛の原因について,諸家によると骨内圧の上昇の問題,肩峰下滑液包の腫脹による圧上昇,烏口肩峰靱帯下の圧上昇,肩峰下滑液包と棘上筋との癒着などで生じるとされている.
握力の低下の原因については,前腕筋群の筋力低下・末梢神経の絞扼・筋収縮に伴う痛みによるもの・肩手症候群などのRSD症状・上肢近位での筋力低下に伴う近位の安定性の低下など様々考えられる.
今回の検証の結果では夜間痛がある患者は男性より女性に握力の低下が顕著にみられた.骨格筋は加齢に伴い萎縮していき,それに伴い筋力も低下していく.この加齢による筋萎縮は特に女性で顕著であり,大腿周囲筋に次いで上腕で起こりやすいとされている.逆に前腕筋群は加齢に伴う筋萎縮は少ないと一般に言われている.このことから今回のP群の女性の握力の低下の要因が加齢に伴う筋萎縮と考えるならば,前腕筋群の筋萎縮とは考えにくく,上腕・肩甲骨周囲筋群の筋萎縮ではないかと推察される.上記のように加齢により萎縮しやすいところに,痛みからの不動による廃用萎縮が加わることでより増悪したのではないかと考えられる.
今回のP群女性では痛みと,不動による廃用との悪循環が続いたために今回のような結果となったのではないかと考えられる.この肩周囲で生じる循環障害が発痛物質の貯留を招き,より循環状態が悪化する夜間(臥位)でうっ血が起こり肩関節周囲の圧上昇も同時に招くことで痛みが増大してしまうのではないかと考えられる.肩関節周囲炎に対して理学療法を行うにあたり,夜間痛や安静時痛が強い時期は炎症が起こっていると思わる.その時期に行う筋収縮や関節運動は炎症を助長し,痛みを増強する恐れがあると思われる.
今回,夜間痛がある患者では握力の低下がみられ,夜間痛のない患者では握力の低下はあまりみられなかった.これは,先に述べた不動による廃用も考えられるが,握力を強化する効果に加え,上肢の循環改善を促し夜間痛の改善につながるのではないかと考える.そうであるならば,握力運動は痛みが強い時期の患者に対してリスクの少ない理学療法として,痛みの軽減を図ることが可能ではないかと推察する.
今後、握力強化を行うことで、近位筋や循環状態にどのような影響を及ぼすか検討する必要がある。
【理学療法研究としての意義】
握力は臨床において評価が容易であり,肩関節周囲炎を評価するにあたり,肩周囲の評価に加え握力の評価もおこなうことで,病態の把握の手助けや痛みを評価する上での簡便な指標になるのではないかと考える.

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© 2010 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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