近畿理学療法学術大会
第50回近畿理学療法学術大会
セッションID: 91
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三宅式記銘力検査における得点と脳血流の変化
*杉谷 竜司本田 憲胤前田 和成岡島 聡(OT)白石 匡東本 有司(MD)福田 寛二(MD)
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抄録

【目的】
 記憶検査には、三宅式記銘力検査、Benton視覚記銘力検査、WMS-Rなど種々の検査法がある。頭部外傷など脳損傷をきたす疾患、アルツハイマー病を中心とした認知症、高次機能障害の評価として用いられている。なかでも三宅式記銘力検査は、言語性記憶に特化した検査法である。記憶検査は一時的に記憶、想起する課題である事からワーキングメモリーが深く関与すると考えられる。ワーキングメモリーとは、言語理解、学習、推論といった複雑な認知課題の解決のために必要な情報(外から与えられたもの、あるいは記憶から呼び出したもの)を必要な時間アクティブに保持し、それに基づいて情報の操作をする機構と定義されている。中鉢らによると、ワーキングメモリーは前頭皮質背外側部に関与すると報告されている。
 種々の高次脳検査にて脳血流反応が報告されているが、言語性記憶検査である三宅式記銘力検査、特に本検査のように同一課題を複数回行う課題での脳血流反応は報告されていない。
 したがって、本研究の目的は、三宅式記銘力検査時の脳血流量反応について光トポグラフィ装置を用いて検討する事である。さらに、言語性記憶検査において、同一課題を繰り返した場合のパフォーマンスと脳血流の関係について明らかにする。

【方法】
 健常男性7名(25±3歳)。
 脳活動の計測には光トポグラフィ装置(株式会社日立メディコETG-7100)を使用した。計測には、3×10の格子状に配置された47チャンネルの計測プローブを使用し、国際10-20法のFpzに前縁中央を設置した。ワーキングメモリーに関与するとされる前頭皮質背外側部の酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)量を算出した。認知課題遂行前の10秒間をベースラインに設定し、認知課題遂行中のOxy-Hb値との変化量を算出した。記憶課題による大脳皮質の賦活は、Oxy-Hb量の増加とした。
 認知課題には、三宅式記銘力検査(東大脳研式対語リスト)を用いた。検査は1)有関係対語、2)無関係対語の2条件として、各10組の単語を呈示し、復唱・想起させた。1)→_2)の順序にて行った。計測プロトコルは安静10秒、復唱100秒、安静10秒、想起100秒とし、同一の課題を3回ずつ施行した。
 統計には統計用ソフトウェア(PASW18)を使用した。統計解析にはくり返しのある一元配置分散分析後にTukey の多重比較検定を実施した。有意水準は5%未満とした。

【説明と同意】
 全対象者に対して事前に本研究の目的と内容を口頭、文書にて説明し、研究協力への同意を得て実施した。

【結果】
1.三宅式記銘力検査
 対象者全体の正当数(平均±標準偏差)は、有関係対語において1回目9.4±0.78であった。2回目、3回目はいずれも10.0であった。無関係対語においては、1回目7.3±1.7、2回目9.4±1.0、3回目10.0であった。有関係対語、無関係対語ともに正当数は増加傾向であった。特に無関係対語に関しては、1回目と比較して2回目、3回目にて有意な正当数の増加を認める(p<0.05)。
2.oxy-Hb値
 有関係対語においての想起時のOxy-Hb変化量(平均±標準偏差)は、1回目0.19±0.17 、2回目-0.20±0.33 、3回目-0.38±0.37であった。無関係対語に関しては、1回目0.14±0.24、2回目-0.01±0.11、3回目-0.18±0.26であった。有関係対語、無関係対語ともにOxy-Hb量は1回目と比較して3回目にて有意に低下した(p<0.05)。

【考察】
 本研究では、光トポグラフィ装置を用いて、三宅式記銘力検査の得点、および遂行時の脳血流反応を検討した。
 有関係対語、無関係対語のいずれにおいても、1回目と3回目の比較にて、三宅式記銘力検査の正当数の増加認め、特にOxy-Hb変化量に関しては有意な差を認めた。言語性記憶課題においても、同一課題を頻回繰り返す事によるパフォーマンスの向上は、脳血流量を減少させる事が示唆された。
 有関係対語、無関係対語間での比較においては、1回目と3回目でのOxy-Hb変化量の差は、無関係対語において少ない。正当数に関して、有関係対語では1回目9.43±0.79と高いため、2回目以降との差は少ない。一方、無関係対語では1回目と2回目以降での有意な差を認め、有関係対語と比較して難易度が高い事を示している。無関係対語のようにより難易度の高い課題においては、2回目以降に関しても正当数を増加させる努力が必要であったため、脳血流量の変化が少なかったと考えられる。

【理学療法研究としての意義】
 アルツハイマー病を初めとする認知・記憶障害は、脳循環低下による慢性的な酸素供給の減少に起因すると報告されている。高齢者に対するリハビリテーションを行う上で、認知課題においても日々異なる課題、またより難易度の高い課題を行う事が脳活動の賦活につながる可能性が示唆された。

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© 2010 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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