近畿理学療法学術大会
第50回近畿理学療法学術大会
セッションID: 90
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片麻痺患者に対し金属支柱付き短下肢装具を使用し裸足歩行獲得に至った1症例
-scion imageによる関節角度、歩行速度を指標として-
*吉田 大地山里 力也
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抄録

【目的】 片麻痺患者(以下=CVApt)に対し、装具療法は一般的ではあるものの実際に装具を使用し経時的な効果を報告している文献は少なく、経験則や臨床での主観的な観察により判断しているのが現状である。本症例は痙縮が強く、入院当初は体幹・下肢の支持性が低下していたため、金属支柱付短下肢装具(=以下金属AFO)を早期より使用し歩行訓練を導入した。その結果、退院時には筋緊張の著明な亢進なく裸足での歩行能力獲得(屋外T字杖自立)に至った。そこで今回、歩行能力の改善を歩行速度や関節角度を指標とし、効果をより客観的に示すことを目的とし本研究に取り組んだ。結果、若干の知見を得たので以下に報告する。
【方法】 被殻出血にて左片麻痺を呈した、歩行やADLに影響を来たす高次脳機能障害を認めていない50代男性1名を対象とした。ランドマークは麻痺側の第5中足骨、外果、腓骨頭、大転子、肩峰に反射マーカーを貼付し矢状面から10m歩行のビデオ撮影と歩行速度を測定した。1歩行周期を静止画像化した後、scion imageにて足、膝、股関節の各関節角度を算出した。歩行条件として、速度は自由速度とし、入院4ヶ月後と5か月半後の装具着用下、裸足の各々計4回測定した。歩行時のback kneeとfoot dragが主な歩行不安定性の主要因であったため、データ化した1歩行周期の麻痺側立脚後期の左膝関節角度(TS)と麻痺側遊脚中期の左足関節角度(MSw)を関節角度の指標とした。
【説明と同意】 本症例と家族に本研究の趣旨・目的について説明を行い、情報の開示に対し同意を得た。
【結果】 TSは、4ヶ月後(4M)の装具有歩行(=装具)膝屈曲0.45°、4Mの裸足歩行(=裸足)膝伸展1.97°、5ヵ月半後(5M)の5M装具膝屈曲4.72°、裸足膝屈曲5.07°となった。MSwは、4M装具背屈4.89°、4M裸足底屈1.15°、5M装具背屈3.28°、5M裸足背屈0.38°となった。また、歩行速度は4M装具4.27 m/hr、4M裸足3.8 m/hr、5M装具5.43 m/hr 、5M裸足6.34 m/hr(努力歩行6.99 m/sec)であった。
【考察】 4M裸足ではTSにてBack kneeが観察され、関節角度においても膝伸展1.97°と過伸展を認めていたが、5M裸足では膝屈曲5.07°と、約7°近く屈曲方向に改善した。また4M裸足のMSwでは、底屈1.15°で前足部のfoot dragがみられていたが、5M裸足では若干の背屈(1.53°改善)が認められ、観察上のfoot dragも減少した。また、歩行速度は3.8m/hrから6.34m/secへ向上し、努力性歩行内での速度調節が可能となり、他者の歩行速度に合わせた裸足歩行の獲得に至った。本症例にとっての実用歩行とは、屋内平地は裸足独歩、屋外坂道・不整地では裸足T字杖使用にて自立し、職場を考慮し他者の歩行に合わせるため、過度な筋緊張亢進がなく6.58_km_/hr程度の歩行速度を獲得することとした。早期から金属AFOを使用し効率的に筋緊張コントロールや支持性の向上が図れたため、裸足歩行時の背屈位からの蹴り出しや左足関節のtoe clearanceが得られ、歩行安定性や歩行速度の向上に至り、上記の歩行能力の獲得に至ったと考える。
【理学療法研究としての意義】 今回、セラピストの動作分析や経験などを中心に評価しているそれら歩行の変化を、歩行速度や関節角度など客観的な指標を用いることで、より具体的に把握することができた。装具は補装具として用いられ、半永続的に着用することも少なくない。しかし、適応に合わせて早期より治療用装具として用いることで、裸足での歩行能力獲得が可能となるケースもみられる。また、金属AFOは矯正力が強く、筋力のある比較的若い男性や筋緊張の亢進が著明な症例に適していることが示唆された。しかし、症例数が少なく今回の結果のみでは傾向に留まるため、今後指標や症例数を増やしていきたい。

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© 2010 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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