近畿理学療法学術大会
第51回近畿理学療法学術大会
セッションID: 10
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人工膝関節置換術後の早期杖歩行獲得に影響を及ぼす因子の検討
*飛山 義憲山田 実和田 治田所 麻衣子北河 朗新田 真吾水野 清典岩崎 安伸岡田 修一
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抄録

【目的】
わが国における人工膝関節置換術(以下,TKA)の件数は年間7万件に及ぶと報告されている.医療費の抑制や早期の日常生活への復帰という観点から入院期間の短縮化が注目されているものの,わが国におけるTKAの入院期間は1ヶ月程度と報告しているものが多い.一方,諸外国では早期理学療法介入の有効性が報告されており,入院期間は2日から7日とわが国とは大きな差がある.諸外国では術後早期もしくは術当日から理学療法介入を行うことで術後早期から身体機能の向上を図り,入院期間の短縮と早期の日常生活復帰を実現させているが,わが国ではTKA術後における術当日からの理学療法介入や早期離床に関する報告はまだ少ない.早期の日常生活復帰には術後の歩行を中心とした日常生活動作を早期に獲得することが不可欠となるが,より短縮化された入院期間では術後の歩行能力の回復状況を術前から予測することが重要である.そこで本研究では当院にて実践しているTKA後の早期理学療法介入において,術前の身体機能や運動機能が術後に自立した杖歩行を獲得するまでの期間に及ぼす影響を検討することを目的とした.
【方法】
対象は変形性膝関節症によりTKAを施行された113(男性18名,女性95名,平均年齢74.6±7.8歳,平均BMI26.8±4.4kg/m2)名とした.原疾患は変形性膝関節症とし,術前にバギーや車椅子など杖以外の歩行補助具を用いている者,術後せん妄が著明であった者は除外した.術日に深部静脈血栓症予防に関する理学療法介入を開始し,術翌日から歩行練習などの理学療法を行った.入院期間は7.3±0.8日であった. 術前の運動機能評価として,膝関節可動域,膝関節伸展筋力,10m歩行時間,5回立ち座りテスト,Timed Up & Go test(TUG)の計測を実施した.膝関節可動域は日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会が推奨する測定方法に準じ,膝関節の屈曲および伸展可動域を他動にて測定した.膝関節伸展筋力の測定にはミュータスF-1(アニマ株式会社製)を使用し,最大等尺性筋力を測定した.測定肢位は座位にて膝関節90度屈曲位とし,トルク体重比(Nm/kg)にて算出した.10m歩行時間は自由歩行とし,TUG,5回立ち座りテストはできるだけ速く行うように指示し,時間を計測した.5回立ち座りテストは疼痛を考慮し測定を1回のみとし,それ以外の項目は各2回ずつ計測を行った.筋力は最大値,歩行時間,TUGは最小値を採用した.杖歩行自立に要する期間は,術日から病棟内での杖歩行自立を許可するまでの日数と定義した.さらに,手術情報として手術時間,駆血時間,術者を手術記録より後方視的に調査し,術者に関してはダミー変数として用いた.統計学的解析にはスピアマンの順位相関係数検定を用いて杖歩行自立に要する期間と術前の運動機能評価各項目,年齢,BMI,各手術情報との関連性を検討した.さらに杖歩行自立に要する期間を目的変数とし,杖歩行自立に要する期間と有意な相関関係を認めた項目を説明変数としたStepwise重回帰分析を行った.統計学的有意水準は5%とした.
【説明と同意】
参加者には本研究の主旨,目的,測定の内容および方法,安全管理,プライバシーの保護に関して書面および口頭にて十分な説明を行い,署名にて同意を得た。
【結果】
杖歩行自立に要した時間は術後平均4.2±1.6日(2~10日)であった.術後から杖歩行自立に要した期間は,術前におけるTUG(r=0.32,p<0.001),10m歩行時間(r=0.25,p<0.01)と有意な相関関係を認めた.さらにStepwise重回帰分析の結果,杖歩行自立に要する期間を決定する因子として,術前のTUG(偏回帰係数:0.24,p<0.001),10m歩行時間(偏回帰係数:-0.13,p<0.01)が抽出され,この回帰式の修正済決定係数はR2=0.45であった.
【考察】
本研究の結果から,TKA後早期の杖歩行自立に要する期間の予測に最も有用な術前の運動機能はTUGであることが明らかとなった.さらに,10m歩行時間に関しても杖歩行自立に要する期間に関連することが示され,単純な伸展筋力などではなく,術前の歩行能力や立ち上がりからの歩行,方向転換動作などを含めた総合的な移動能力が杖歩行自立に要する期間に関連することが示唆された.
【理学療法研究としての意義】
わが国においてTKA後の杖歩行自立に要する期間に関連する術前の身体機能に関する報告は散見されるが,一週間程度の入院期間における早期の杖歩行自立に関する報告は少ない.今後,諸外国同様にわが国においても入院期間の短縮化が図られることが予測され,その中で本研究は術前の移動能力の重要性を示し,術前から移動能力を向上させるような術前リハビリテーションの重要性を示唆したことは非常に意義深い.

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© 2011 社団法人 日本理学療法士協会 近畿ブロック
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